幽霊,第一症
あの職員室の出来事を、君はなんと呼ぶだろうか。
神は、それを運命と呼んでくれるだろうか。
鳥が果実を食べ飲み込んだ種を空から落とすように、仕組まれた軌跡が僕らの目を合わせたのだろうか。
君は蜃気楼のように掴みずらく、そして生者の亡霊のような男だったな。
そうだな……これは、"君"と僕の物語だ。
-(*)
あの日、僕は君と出会うことになるがそれは置いといて15分前…。
今の季節は冬上がりたての春。
桜が芽吹き始める頃だ。自分達は2年になった。……と言ってもあまり変わることはなく、3年のように卒業に向けて準備するのではなく、新1年のように新たな制服に身をつつみ緊張にみを委ねるでもない
昨日と明日、ずっと今日の日を生きるように何か新しいことに突っ走るより堅実に、分かることだけで生きていく。
言うなれば青春とはこれからだぜぇ!!と言った感じ、だがガッツポーズ掲げて叫ぶ訳にもここは教室、唯一変わった桜の視点をツマミにして新世界に音頭を取るだけさ。
「えぇ〜、しょーちゃんマジ最高〜」
おや?もう友達が出来たのかあそこの女子連中は、いいな。そのコミュ力を出来れば分けて欲しいものだ。
そのコミュ力を見習い聞き耳を立てることにした。だから友達がいないんだよと言うツッコミは無しだ。
「えー、もうここまで来れば私達マブじゃん」
「うぃ〜、気分上々↑↑だぜぇ〜」
「takeTok撮ってみね、絶対バズるべ」
「フゥーしょーちゃん、積極的ぃ〜⤴︎」
コミュ強とは凄いな。この短時間で親友と呼べるほどの友を作るとは。
「おっ、やべ。これもうアカデミー級だべ」
「ふぅ、全国少年少女の股間びしょびしょだぜフゥー⤴︎」
不味いな、あれをすれば陽キャになれるというのなら僕は生まれ変わっても無理だぞ。
常識どころか非常識に刻まれた僕の生まれつきの"ルール"、古事記に乗ってる、多分な、そう願ってる。
……いやだがよくよく考えると、常識っていうのは非常識とあんまり変わらなくて、子供同士が殺し合うだなんて文字数変えればどちらにせよよくある風景なのではないか?
この窓枠の外に映る桜の下を仲睦まじく歩く生徒達。そうだ、その子供同士の狂気が質量として存在するか否かそこが大事なのだ。
カバンから顔を出すとある得物。
そうだあれが僕達の常識だ、だから大人達は声を荒らげて非常識と叫ぶ。
生徒同士の喧嘩が殺し合いに発展したり、不良の悪ふざけがテロになる。
ただのイジメが大々的に報道されることはない、その先の行く末を大きな声で拡散しているだけだ。実際僕達が剣や銃を抜いたとこで同じようなもの、だから常識。
武器持つことが当たり前だと深層意識に刻まれた僕達だ。
「さて……」
ここでずっと突っ伏しているのもなんだ。用足すくらいいいだろ。……いや、なんだ実の所を言うと僕はこの後、先生に呼び出されている、本当だ。だからその陽キャの近くで耐えられなかった等の理由じゃないぞ。
-(*)
先程は随分語ってしまった。思わずその手をポッケへねじ込む。
爪に何かが当たったカチャカチャと音が鳴ってるのだ。これは?あぁ、薬莢だ。多分どこかで拾ったのだろう。覚えのないゴミを拾っているとはさすが僕同族嫌悪だなんて文化には負けないゾ。
2本の指の甲コンコンと扉を叩く、ここは職員室前。
「しつれーいしやぁーす。」
「本当に失礼なやつがいるか。」
「おわ、近い」
「いや、すまないこちらも今出るところだったんだ。用は……多分私の件だな」
「あぁ、はい、呼ばれていたので……、いえ今開けるのでしたら待ってましょうか?」
「いや、いい実際ただ来客用に茶と菓子をとなと、話はすぐ済むと言っていた。このまま顔合わせてしまおう。」
「顔を……?」
「おお!宮城教師!!こちらがあなた推薦の生徒さん?なんとも生意気な目!!その三白眼が私の嗜虐心を燻らせる!!」
突如、職員室という教師全員の視線が集まる中、この存在は膝をつき紳士の佇まいで手を俺に差し伸べた。
ベージュのトレンチコートを靡かせたボブカットの少年、その顔は中性的で片目、両手と包帯が巻かれている。その特徴的なチェックの入ったトレンチコートと目出し帽で次来るセリフが手に取るようにわかってしまう。
「初めまして、その奇妙なピアスが特徴的な君。僕がウィリアムズ・シャーロック・スコット・ホームズを受け継ぐ希代の探偵さ。」
そして最後にバチッとウインクを決めた。
「……え?いや、は?」
「わかる、わかるぞぉ二兎。このテンションはさすがの私でも追いつけなかった。」
「いやテンションとかじゃなくて。」
なんなんだ?これは?ドッキリとかだったらシナリオライター呼んでこいぶっ飛ばしてやる。
「まぁ、無理もない。ただクールダウンのためにも話を変えようか」
「いや、話を一旦止めて欲しい訳でして」
「君は、昨日の鏖殺爆破事件を知っているかな?」
「……?」
「おっと、すまないこの事件名は自前でね、ニュースとかでは普通科テロとしてあげられているね。」
この事件は、知っている。今朝テレビの前で絶句したばかりだ。小さいテレビに映るは煙が渦巻く我が学び舎を背景にテレビに移る死者500人超の文字。
「昨日、新入生が事前入学の為普通科の教室に入った瞬間、『善行猪』と名乗るテログループにより8クラスの生徒全員が為す術なく殺された事件。」
「あはは……なんて酷い。」
「そう酷いんだ。なんの因果もなくただ快楽を求めて人を殺す。人形を貰った赤子が遊びを日常に組み込むようにね。得物を貰った生徒はそれを振り回す。」
覚えがある。血が流れた覚えが。頭が痛い。
「さて話を戻そうか、そして僕からのお願い。それが選ばれた君がここにいる理由」
「……それは?」
冷たい風が窓の隙間から入ってくる。その時だ。ふと視線を下にやった時だ。
……今気づいた、この男、着ている学校指定の制服がワイシャツしかない、トレンチコートにワッペンでも貼っている訳でもない。
どこの学部所属か分からないのだ。ただ生徒という存在証明のワイシャツに腕を通しその決意は探偵の制服に身を包む。
どこの誰かも分からない、でも確実にそこにいる。一時でも気を許したら飲み込まれ食べられてしまうような、朧のような恐怖がその少年にはあった。
「僕の助手になってくれないか?」
改めて言おう。これは君と僕の物語だ。




