駱駝,第五幕
本来名前持ちの名前というものは、着くべくして着くようなものでなく定着するもの。
何処かの組織が紙の上で決めるものではなく、人の噂や知名度によって広がり学園全土に恐れられ知られるとようやく名前という存在になる。
堀水茜の幽霊や天崎裕太の白翼守のようにその力から噂が伝染病のように広がる者もいれば中には自分から名前を名乗りあげそのまま噂として広がり本当に名前持ちになるものだっている。
「――俺はぁ!!駱駝だぁ!!!」
鞘から取り出すは一本のフローリングワイパー、よくトイレ掃除とかで見るタイプだ。
女子高校生よりも柄は長く細く柔軟性もない。皆のような洒落た力も持ち合わせていないし、何処か隠しギミックがある訳でもない。
ただその長さは槍のように、その正方形のカミソリのような刃はヤスリのように、搦手も豊富でじわじわと削り絡鈍痛響かす武器、私にピッタリだ。
「ハンドマン」
「それがお前の人形か!セルディアの乙女!!」
刹那、鳴り響くはシャッターを閉める豪快な音…違う、これは私の踏み込みの音、シャッターのように勢いよく下がったのは駱駝の瞳孔、懐に潜り込んだ私の姿をいち早く認識する。
首は届かない、ならば『コマンド』を使ってしまえ。
深く息を整えるそれと同士に息を吸い手首の角度を変える、ギュムッと平の皮が捻れる音と共にその柄は振り上げられる、首じゃない二の腕にガリガリとカミソリのような刃が喰らいつく。
その腕に血が滲む瞬間、それは起きる。
この数秒とも言えない空間に遂に目の前の怪物が赤を流す、その表情に移るのは畏怖か絶望か。
……いや、大きな二の腕で見えていないが多分同じだ。私も、怪物もこの殺し合いが楽しくてしょうがない、青春に恋し赤い春を訪れるのを恋文に載せスキップで待ち焦がれる。――真っ青な笑顔だ。
【弾 杖】
-(*)
どんだけ腐っていても人形は護身武器でしかない。
突如降りかかった火の粉を生徒個人が振り払えるように、身を守る力を与えるようにと、だから人形には生徒がすぐ慣れるようにと数々の多機能が着いている。
その一つ初心者用プログラム、『コマンド』
まず前提として個人の人形にはそれぞれゲームや漫画で言うところの特殊能力が備わっている。それは自動で発動するものやそれ自体が特殊能力のようなものもある。
だがそれを理解することや発動までに持っていくことが難しいということから機能として人形に追加された。簡単に言ってしまえば『コマンド』とは暗号や認証コードによる特殊能力までのショートカット。
これが本来の『コマンド』である。
『自分を知れ、鎮玲。人形ってのは名前の通り自分の姿形をしたマネキンのようなものなんだ。分かりやすく言ってやると強くなるってのはそのマネキンにどんな服を着せるかって話になんだ。』
古臭いヤニの匂い、腹に響くようなフローリングを蹴る音、目の前の龍のような髭が立派なおっさんは元セルディアのリーダー。歳は2コ上、信じられない。
『このゴーグルやるよ、初手の一歩としちゃオシャレだろ。』
『煙草臭いなぁ……』
『文句垂れるな青臭坊主』
私はそのリーダーの老け腐った笑顔を忘れるのだろう、刻みつけた思い出も私の気も知らないで霧がかかる。
リーダーは最後に着飾れだなんておっさんみたいに言っていた。思い出しては笑ってその首のゴーグルのひんやりを握る。
ふと家のクローゼットを開けて何もない空虚を知るそれと同時に慈愛を知る、貴方もそうだったんだねと抱きしめてあげたくなる……その時初めて人形を自分として見れた気がしたから。
――『コマンド』を使う時、特殊能力の本来の力の45%を引き出すことが出来る。そして条件や状況、縛りを課すことで『コマンド』はその本領を発揮する。
70%の力の解放、特殊能力の応力の後押し
つまり、『コマンド』を使うことによって初心者補助プログラムは生徒達にとっての奥の手や切り札、必殺技になる。
-(*)
ひんやりと金属の部分が冷めることない目頭の上に乗る。
古臭くレンズも霞んだ先では私の視界なんて関係ないみたい、全員が平等で顔がない。
血溜まりも踏み越えてその先にいる駱駝の背を押しつぶす、彼は数分前まで私と目の鼻の先にいたはずが今では私の視界にはその無駄に大きい図体が全体的に見える。
「ごぶっ……飛ばされたと言うより弾かれた感覚だ。何か見えない壁?いやどちらかと言うと磁力に似ている。そしてその一撃は俺の腕が削れた時に起きた……なるほど、お前の人形は水を弾くのか」
「よくもまぁペラペラと…オタク?」
楽しそうに喋っている、まるで自ら檻に入った実験体。
例え腕にヒビが入ろうと口から血反吐吐こうと目に銀河を宿す少年のようなキラキラがなんともまぁ眩しくて、イライラする。
【環奈】
可愛らしい名前とは裏腹に砂渦の中から鈍い音と共に落ちてきたのはとにかく鎖の短いモーニングスターが玉の方から顔を出す。
顔一つ分ほど巨大なトゲの着いた玉と大剣のような柄からは想像もできないほどの鎖、ほぼ1個半くらいだ。が玉が回る、風を切り空間をその何かで歪ませるほどの圧が回っている。
「意外と驚かないんだな。お気に入りだったんだが」
「今回は特別……さすがに私も知ってる。」
「そうだな悠良木 環奈の人形「ツイスター」、その身に秘めた力は回せば回すほど鎖が伸びていく特殊なモーニングスター。」
「彼女は最近行方不明の名のある賞金稼ぎだった。二ツ星の悠良木だなんて名前が着いててね。……セルディアの元構成員だった。」
足の下、踵あたりが何かと熱く感じる、気づけば私はその喉元へ駆け出していた。
「ふん゙ッ!!」
突如空から降ってくるモーニングスターに行く手を阻まされる。
足元スレスレにその棘が命を狙う、地面に食い込むほどの重量を持った棘の玉、人が壊れるような音を轟々と響かせバスケットボールのようにその場で跳ねているように見えるが
「実際は手動だもんな!!」
玉は見えない、動体視力には自信があったがそんな余裕もないほど私にはこの私を潰す気のモーニングスターの追撃が質量を持った殺意の柱に見えてしまう。
当たったら死ぬが、私は"知っている"。当たったら即死なのもその攻撃方法も、それは駱駝のプライドかリスペクトなのか、その動きは前の使用者の立ち回りを似せている。
だから捌ける。
次の瞬間、私は振りかぶりハンドマンを叩きつける。
だが、叩きつけた先は駱駝では無く、そこには墓掘りの残骸があった。
【弾 杖】
刹那、炸裂した弾ける音と共に私は駱駝の方向に吹き飛ばされる。
勢いそのまま、駱駝の脇をえぐり切る。閃光の如き一撃に堪らず駱駝ですら瞳孔を開く。
「……ぐぶっ!」
「よしっ!」
この調子だ、元々彼の使う橙や設楽悠などは同業者だった。駱駝も腐っても賞金稼ぎ、やはりその人形の持ち主は裏の者が必然的に多くなる。
知っているやつなら環奈のツイスターのように行動を予測して捌ける。
その時、突如駱駝が血涙を流した。
本人も驚いているのかその足が止まる、分厚く硬そうな手のひらが自身の血涙が落ちるのをハロウィンの日、ばら撒かれたお菓子を受け取る子供のように必死に受け止めている。
どんな壁も関係なく中から壊せば関係ないと言うのか、あれは毒だ。
「っ!……蛇腹!!」
「本名!それで呼ばないで!!嫌いなの!!」
勝てる希望が一気に蘇る。
活力と共にその柄を握る力も戻るというもの、これ程までに人の顔を見て安心したことはない……そう安心、勝気、驕り、その上がりきった口角に私は数秒後、後悔するのだろう。
「なるほど!人形で調合した毒!!経口摂取か?なら霧状にして噴射したか!!2人を見る限り目の粘膜からか!?ははは!!面白い!楽しい!!」
「なに?狂っちゃった?」
「いや!まだ油断しちゃ……!」
「そっちだけが楽しいのはズルいなぁ!俺も!!人の人形でコマンドが打てたらもっと楽しかったのかなぁ!?なぁ!!いいなぁ!!……ふぅ」
知らないと言うまい、其処に眠る悪意に。
貯めて、溜めて、先の見えない砂漠の向こうでもかの巨人のような足は止まることを考えない。
砂は足を飲み込み、目を開く彼をも飲み込む。飲み込み口から漏れる砂が滝のように落ちていく。
床は砂塵、駱駝の姿は見えずそこには砂の壁のようなものがそびえ立っていた。
――本来の『コマンド』とは戦闘を簡単に動くためのツールのようである。だが多くの生徒の応用により今では全生徒が使う必須ツールに成り上がる。
理解できていないのならこれだけは覚えて欲しい、今のコマンドとは人形の使用者である全生徒が使えるその人の奥の手のようなものであると
そうだ、全生徒だ。
突如、砂壁から出てきたのは駱駝の手。
それは、鉄砲のような形の……
【サンド:ワーム】
砂の壁から生えてきたのは無数の銃口。
無数の殺意のギラつきに鳥肌と言うのか立ってはいけない産毛のような全身の細胞が危ないと叫ぶ。
「さよならだ、牛若丸。」
唸り鳴る火花の音
腹に残るような硝煙の匂い
サヨナラを告げる心音の声
その時ぐちゃなんて音が響いた。
ご覧頂きありがとうございます。
作者の境ヤマトです。
今回は流石に自分でもコマンドの言語化が難しくて難儀していました。ですのでちょっと分かりやすくしたバージョンをここに書いておきますね!
それでも分からなかったら、そこまでですね。貴方の旅はここでおしまい、ああ読者よなんと死んでしまうとは情けない。なんてね。
FPSとかでよくある設置型爆弾『C4』で説明。
コマンド無しで特殊能力を使う場合
プログラミング的な文字をメーッチャ打って爆弾取り出しメーッチャ文字打って爆弾投げ、メーッチャ文字打って起爆する。
コマンドありで特殊能力を使う場合
事前設定で「a」を打って爆弾取り出して「b」を打って投げ、「c」を打って起爆する。
コマンドを応用して奥の手を使う場合
「a」押したら敵の足元に無数に爆弾が湧いて勝手に起爆する。




