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BAD student's  作者: 境ヤマト
君と僕の物語
10/13

駱駝,第三幕

凍えるような冬頃の話、ホコリと霜が舞っていて、外から入る光に照らされキラキラと光がチェーンみたいに繋がって部屋に広がっていく。

 足や指の先は悴んで真っ赤に腫れている、床は軋み傍らにおいてあるマットに顔を埋めようとする。


……辞めた、ホコリとどこの誰かの血液が混じっている、子供心ながらにこれはダメだと悟った。


なんで今私は閉じ込められている、まだ姓を得て三年も満たしていない坊だぞ、など悪態をついても記憶は僕を裏切っていく。


『いい?洸輝(こうき)君は男の子なの、男の子は男の子らしく生きなきゃいけないの。そんな子供じみたものは捨ててきなさいな。』


ああ、気持ちが悪い。家訓か?いやその傍らに寝そべるクマの人形にだ。

 母上の言うことは正しい、私は男だ、それらしく振舞う女々しく布物を抱くとは情けない。周りから舐められてしまう。

 2歳4ヶ月の稚児がそう悟ったのだ。


そうだ、弓を習おう

 筆を学ぼう

 星を観よう

 時には山に入り父上達の狩りを見よう。


頬はまだ年相応にぷっくりとしていて背丈もそこの筍に負けている。

 だけどこの指だけ異様にガッシリとしていて父上の妾の女に怖がられていた。


同じ歳の子が積み木で遊んでいる頃には私はもう筆を握っていたのだ。


-(*)

 

「ファン…?のようなものでしょうか?」

「ファン?」

「いえ?でも憧れ?というものは貴方相手にあると思います。第一、一目見た時私吐きそうになりました。」

「あー、嬉しゲロってやつね」

「あ、はい多分。」


なんだこれ、と自問自答する。

 そりゃあそうだろう?だって先程までかっこよく今まで苦しめてきた暗い瞳の正体を暴いてやろうだなんて息巻いていたんだ。

 それがなんだ?今小学生の話し相手になってあげているところだ。


「その、梔子君は私の事ファンとか言っていたが……そっ…れはぁ、……人となりとしてなのか?それとも……」

「やっ、いえ!人となりであってます!僕の場合それ+αと言いますか。その昔仕事をしているところを目にしただけなんです。その、人形と思えない見た目の武器でも楽しそうだなと目を追っていくうちに……と感じで……なんですが……?」

「まぁいいさ、そう、それはいいんだ。」


グダグダだ。この場から逃げ出してすぐに風呂に入りたいぐらい変な汗と空気でグダグダ、絡まりきった会話の糸が解れず解こうとしたらより絡まる。


「一ファンとして聞きたいことがあって、何故セルディアさんはそんな人形でも楽しく戦えるのですか?」

「セルディアさんって……」


私の人形はパッと見、人形には見えない。

 この姿は向けた相手から「馬鹿にしている」だのクレームが届くほど。

 それは等身大の少し柄が長いワイパーソード件フローリングワイパーであるからだ。そう、みんな大好きクイッ〇ルワイパー☆の大きいバージョンなのだ。

 お偉いさんはこれを剣と呼ぶ、ふざけやがって


ただ、この少年は馬鹿にしてやろうだなんて考えてこれを言ったわけじゃない、わかってる。だからこそ惨めだ。

 

「……別に私はどれだけいい矛を貰ったところで比べてしまったんだろうね。たとえ立派な矛を貰ったところで隣の芝生は青く見えてしまう。かえってこちらの芝生はなんとも茶々臭い…ってなる。でも、だからこそ、初めて自分の芝生に水を上げた時感動するんだ。…ほんとにたまにでいいんだ、今!やれ!とか熱血じゃあるまいし、……だからたまに目を開けてやるがいい、そんなに大事に握っているならね。」

「大事に握って……よく、これが人形だなんて」

「……好きなんだろ?」

「うん、そうなのかも。」

 

この細めた瞳は何を見せる、忘れたかった何かなのかもしれない……ただ思い出せない、忘れたかったから。


『梔子君は男の子だからね、人形なんか女々しいものは嫌いでしょ?』

 

――ああ、昨日ゴミ箱に捨ててやったよ、ははうえ。


もう二度と、私の前に姿を見せないでくれ。気色が悪い

もう僕は小学生だ。母上や父上の傍を離れて一人で生きるんだ、尚更、人形だなんて……女々しくて、恥ずかしくていらないよ。ああ、恥ずかしい……恥ずかしい…………


『――はい、これが君の人形だよ。』


"それ"は人形の見た目をしていた。

 その時、膝から崩れる音がした。その目は信じられないものを見るようで堀が深く眼球が顔の奥のモヤに落ちていく感覚がする。


『本来、人形というものはオーダーメイドでね、その人の人となりが少しだけでも出てしまうことがある。』

『……?』

『だから剣や銃と違った何かが作られる子は大事なものを抱えている子が多くてね。』


その優しい眼鏡の色を未だに覚えている。とにかく白衣が良く似合う人だった。

 その笑顔を未だに覚えている、この熱く燃え尽きそうな涙とともに覚えている。


『君は本心から人形が好きなんだね。』

 

……あぁなんだ、まだ…好きなんじゃないか……っ!!


だからこの手は熱く手のひらを伝って首元から火照っていく、この人形の形をした人形への思いは恋に似た芯から食うような熱を感じる。


――セルディアの構成員はもう出ていった。

 出口に通じる扉の隙間からは春の精霊が顔を覗かせる、イタズラに吹く春風は裏通路の床を伝って足から悴んでいく、親に閉ざされた廃倉庫の感覚を思い出してしまう。軽く震えが止まらない、寒さのせいかな。


「少し……申し訳ないな。作戦会議もう少し出てあげれば良かった。これぐらい伝えてあげれば……」


瞼を開く、小さな自分のお手手とクマさんの人口の目と目が合う。無機質なのに笑っているような毛糸と暖かい瞳だった。


僕の人形の能力、【胎盤致死(奥の君にサヨナラヲ)

 効果は、頭で想像した相手に即死の呪いを付与すること、条件は想像したことにより対象に模した人形を()()こと


これはどんな条件下でも相手を殺す、正直駱駝(キャメル)なんて屁でもないくらいだ。


「しかし…千鶴なんて名前なのに男なんだな、しかもごつい。」


だなんて見た目が変わった人形に最後の声を添える。

 

準備は出来ている。

 姿が変わった人形に口を開ける、抱え込むように大事な何かを守るように


「……いただきます。」


これが発動されれば仕事は終わり、このまま解散。


たとえ邪魔などされなければ――


-(*)


同時刻、フロントにて。

 

「そぉーの時→言ってやったのよォ!↑↑『…お前には2日後のカレーで十分さ。』ってねぇ!!⤴︎⤴︎」

「おお……?」

「ばっか…!カレーは2日目が美味しいんだろ!?」

「何方デもいいダろ」


なんというかくだらない話、充分寝たはずなのに欠伸が隙を狙っては喉から顔を出す。


「ほら→セルディアの従業員さん?も恋バナ⤴︎⤴︎あるデショウ?⤵⤵」

「うわ!出たネ!!だる絡み」

「てかそれ恋バナだったの?私てっきり武勇伝かと」

「本当は作戦会議なのにね、裏組織辺りから可笑しくなったわね。」

「教えなさいよそーゆーの」


笑っている、この顔は笑っている。

 みんなも笑っている、楽しそうだ。いや実際私と同じで楽しいのだ。ここまで楽しく談笑を交わすことなど久しぶりだ。……だからだろうこの後の記憶の顔にモヤがかかってしまうのがたまらなく悔しい。

 

「……バチが当たっちゃうよ。」


その時神様はとことん私の事が嫌いなのだと、静かにそう告げる音が鳴った。

 風のイタズラなのか、後ろの裏通路に通じる扉がギィ…とか細い音を鳴らす。梔子が戻ってきたのだろう、彼は幼いのだ、迎えに行かなければ。


「おー、少年遅かったネー↓?うんこかい?→手は洗って……!」


目と目が合う。

 いつもとは違う二つある、梔子の幼くもつぶらな瞳。今は暗く小さく生気もなく淀んだ目

 そう、真正面で目と目があってしまったのだ。

 ……()()()()()()()()

 

梔子の首から下はなくそのたくましい腕に髪は掴まれ、スーパーからの帰りのレジ袋の持ち方だ。理由も工夫もなく、ぶら下げ、ただ持つ。

 下から滴る血の轍は、静寂ともう一つ、何かを伝えるメッセージ。


知らないとは言うまい、彼は泣く子も黙る化け物だ。

 こぶのような二の腕やその顔を隠す仮面、ボロ臭くなったフード付きコート、今やその面影もなく鬼の子の角隠しに使われている。


 ただ私達は静かに理解する。この目の前にいる存在が、この化け物こそが――


(((駱駝(キャメル)っ!!!)))


「兄さんっ!!」

「あ゙あ゙っ!!芯九郎!!!」


野生の勘か、真っ先に動いたのは鬼牙兄弟だった。


その時グニィと音がする。

 ――あれは弟だ。弟の芯九郎の身体が奇怪な方向へと曲っていく、あれは……『球体』、弟は故意に自らの身体を球体に丸めていく、()()()()()だ。


「消し飛べ……駱...ッ駝ァッ!!(キャメルァァ)


兄、素詩郎は力強く足を後ろへ引っ込み歯を食いしばる。

 次の刹那、足は音を上げ前へ前へと駆けていく、ブチブチと関節は涙を浮かべるがそれが何だと言うのか足は風の層を突き破り振り抜かれる、その足の甲は勢いそのまま人間ボールを弾く。


【絶望特急 !鬼牙王者弟弾(芯九郎ピンボール)


「ハハハッ!!列車の如く発射した人間ボールと化した弟は、気付かぬうちにお前の胴を貫く!!」

「……。」


ピンボールの如くうち放たれた芯九郎は壁に打ち付けられ戻ってくる、部屋をかける姿はまるで人の檻、その壁にはヒビが止まることなく広がってく。


「……砂?」


次に見えるは、駱駝(キャメル)その剛腕に集まっていく砂の粒。生き物のようにまとわりつく砂、あれが駱駝(キャメル)の人形であろうか。


『――それと鎮玲、これだけは大切だから言っておこう。』


思い出す、仕事を寄越したあの男の最後の言葉を。


「……雪菜】

「え?」


駱駝(キャメル)の声だろうか。肌を刺すようなヒリヒリとした重圧、その理不尽如き声に押しつぶされそうな時。駱駝(キャメル)はその砂まみれの腕を突き出す。

 覆われ見えていなかったその剛腕が握っていたのは、一本のナイフ、真っ白で雪の中に立っているようなナイフが()()()()か出てきたのだ。

ぐしゃっと目を覆う、それは氷だった。

 目の前にはあるはずのない氷壁と頭が見事に潰れた芯九郎の姿。――ああ、死んでしまった。


だが今はそこじゃない、彼は砂のようなものを人形として使った。では目の前にあるフィクションともしか言えない氷壁はなんだ?

 ぶわっと出ては行けない汗が出る。


駱駝(キャメル)は人形を()()()使()()

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