読者の皆様、入学おめでとうございます
読者の皆様御入学おめでとうございます
スポットライトが壇上を照らす。
多くの群衆の視線が一点に集中される。まるでアリの軍隊、小粒の一つが私である。
「皆様、御入学おめでとう。」
一人の凛とした老骨がそこにいた。
「私の事は……覚えなくていい、君達の学園生活に必要が無いからね。ただ、そうだね……学長とだけ読んでくれ」
そのにこりと笑う笑顔はどこか印象的だった。
「君達の知っている通り、ここは全国の少年少女が集められた、君達の街、学園都市だ。…いや、学園が都市なことから都市学園と揶揄した方がいいのかな?」
ふと外に目をやる、桜が散っている。あれはホログラムか、何かなのだろう。
本物の桜はもう死んでしまったから。
「ここでは小学等部、中等部、高等部があり君達は今年からここに入ることになっている、大丈夫、暇などないし、お母さんやお父さんも3年に1度君達を見に来てくれる。最悪寂しいなんて思いにはさせないよう励んでいるよ」
私達は中等部上がりだ、母校は外にある。
それにここにいる子達は親離れなどとっくに済ませてる。勿論私も
「この学園都市は特殊でね、全員で同じ学園に入るのではなく、16の学部にそれぞれ別れて貰うことになっている、例えば普通科の学部や海洋科など、警察学部もある。まぁそこは、それぞれの得意分野に行って欲しい、そこら辺の詳細は後でする事にしよう。」
学長はニコッと笑顔を浮かべる。爽やかな老いなど感じさせない笑顔だ。
「難しい話はやめにしよう、私が言いたいことは、たかが6年されど6年ということだ。君達が思っているより6年は短い、だが濃厚だ。これからの人生ここまでに濃い6年間は早々にないだろう。だからこそ大事にして欲しい。友を作り共に学び笑顔を分かちあって欲しい。それが大人としての本望だ。」
その時だった。1枚の花弁がだだっ広い会場にひらりひらりと落ちてきた。
ホログラムとしてのポリゴンのブレもなく、小さく、されど大きい花弁はその学長の掌にさらりと落ちた。
「改めて中等部へのご入学おめでとう。君達に降りかかるこれからの激動に最大のエールを……」
新たな息吹と共に始まる生活に、手のひらの上で起きた小さな奇跡、この真っ青な空は私たちを歓迎しているようだった。
「そして、笑ってしまうくらい真っ青な春の物語に――!」
…………。
――プツンッ。
その時、桜舞う映像は消え真っ暗な画面に自分の顔が映った。なんとも言えない酷い顔だ。包帯を巻いて片目はぐちゅぐちゅに潰れてる。……と思う。
視線を横にずらす顔を引くように、したらそこには女の人がいた。背丈の高い、空色の川に虹の差し色が入るような綺麗な髪を持った女性だ。
顔は……見えない。部屋が暗いからだろうか。部屋の隅に置かれた蛍光灯と女性の顔を往復する。
「……分かった?」
綺麗な声だ。喉からそのまま音が出ているのか聞きやすい声だ。
「この都市の説明はさっきのジジイがした通り、彼が端折った16の学部の件だけどね、一部言っておくよ。16の学部はそれぞれ区分を持っていてそのそれぞれの町がくっついた浮島状態なのが"ここ"。……後の詳しいことは過ごしていればわかるはずだよ。それと……」
ここからは知っている。
――常識だ。私達の日々生活し培ってきた、"当たり前"はこの門をくぐった瞬間捨てることになった。
彼方からの調律者。全ての元凶にして、誰も顔も名前も知らない魔王。
何年前だろう。多分自分が生まれるずっと前だ。調律者がねじ曲げたあらたな常識。
「ある人はそれを"非常識"と罵った。ある人は首を括って死んだ。非常識が生まれたから若き芽吹は花咲くことなく踏み潰され学園都市が生まれた。つまり私たちがいるここは負の遺産ということだ。」
下唇を噛む、血が出そうになってもその怒りが収まることはない。ギリギリぽたぽた静寂が怒りに侵されて行く。
「武器を持て、意志を揺らすな、彼方を見ろ。……覚えていてくれ。誰かが主人公ではないんだ。みんなが主人公なんだ。それぞれの物語が根っこのようにバラつき、根っこのように一点に集まっていく。
……だが安心してくれ君がこれを何かと問う必要はない、あとは新聞が教えてくれる。だから毎週ちゃんと読むんだぞ。……だから、頼んだぞ。」
……怒りを忘れるな。
「敵を恐れろ。」
これは――、僕達が過ごす学園での青春に残る無数の物語。
「始めよう。笑ってしまうくらいの真っ赤な春の物語を……!」
なんということでしょう。こんな僕が小説家デビューです。
飽きるまでしばらく書き続けます。




