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ありふれたひと時に、微笑みを  作者: 白熊 猫


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7/20

第7話 おひとりさまビーフシチュー

ゆるやかでほっこりした日常系の話を書いてます。

1話あたり2~3分で読める短いショートショート形式で、基本的にどの話からでも楽しめるようにしていく予定です。

楽しんで読んでもらえると嬉しいです。

今日は珍しく、空さんと美羽ちゃんの2人だけでのお出かけだ。

朝から「空お兄ちゃんとデートなの!」と張り切る美羽ちゃんを見送ってからというもの、家の中が嘘みたいに静まり返った。

こんなに静かな家、いったいどれくらいぶりだろう。

いつもは小さな足音や笑い声が絶えないリビングも、今日は時計の秒針だけがコツコツと響いている。

最初のうちは静けさが少し新鮮で、ソファに寝転んで読書をしたり、丁寧に紅茶を淹れたりして、思いきり羽を伸ばしていた。

けれど、午後を過ぎたころ、ふと気づく。

……静かすぎる。

笑い声が聞こえないだけで、こんなにも部屋が広く、空気が冷たく感じるなんて。

本のページはいつのまにか止まり、私は窓の外をぼんやり眺めていた。

「よし。今日の晩ご飯は、ちょっと手のかかる料理にしよう。」

そうつぶやいて、エプロンを手に取る。

2人が帰ってきたときにおかえりって言えるように。

温かくて、ちょっと特別な料理を作ろう。

選んだのはビーフシチュー。

時間はかかるけれど、そのぶん愛情がゆっくりと染み込む料理。

厚めに切った牛肉に軽く塩こしょうをして、フライパンでじっくりと焼き色をつける。

香ばしい茶色に変わる瞬間、バターの香りがふわりと広がり、キッチンが一気にあたたかくなる。

玉ねぎ、人参、じゃがいもを切る手元に、自然と鼻歌がこぼれた。

赤ワインを注ぐと、湯気とともに立ちのぼる甘い香り。

コトコトと鍋が鳴る音が、まるで心の鼓動みたいに心地いい。

たまにかき混ぜては、やわらかくなっていく肉を見つめながら、時間の流れを味わう。

ゆっくり煮込んだあと、ルウを加えてとろみをつける。

艶やかな濃い茶色のシチューに思わず小さく微笑んだそのとき、 玄関の方からドアの開く音と元気な声が聞こえてきた。

「ただいまー!」

「おかえりなさい、空さん、美羽ちゃん。」

エプロン姿のまま顔を出すと、美羽ちゃんがぱっと駆け寄ってくる。

「ねえねえ、見て! お兄ちゃんに買ってもらったの!」

小さな手の中には、ふわふわのぬいぐるみ。

空さんも少し疲れた顔をしていたけれど、その目はやわらかく笑っていた。

「おお、いい匂いだな。」

「ビーフシチューですよ。じっくり煮込みました。」

「それは楽しみだな。」

3人で食卓につき、湯気の立つシチューを口に運ぶ。

とろけるような肉のやわらかさと、深く染みたコク。

空さんが「これは……すごいな」とつぶやき、美羽ちゃんが「おいしいー!」と満面の笑みを浮かべる。

その笑顔を見た瞬間、心の中に静かに広がる温もり。

やっぱり、こうして3人で囲む食卓が、いちばん好きだ。

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