第20話 猫のカフェラテ
ゆるやかでほっこりした日常系の話を書いてます。
1話あたり2~3分で読める短いショートショート形式で、基本的にどの話からでも楽しめるようにしていく予定です。
楽しんで読んでもらえると嬉しいです。
「ふぅ……やっと一区切りだな。」
パソコンを閉じた瞬間、指先から力が抜けていく。
張り詰めていた空気が、ようやくほどけた気がした。
ここ数日、案件の締め切りが重なっていて、忙しい日々が続いていた。
終わった実感がじわりと胸に広がる。
「お疲れさまです、空さん。」
振り向くと、葵が湯気の立つマグカップを二つ持って立っていた。
柔らかい笑みとともに差し出される香ばしい香り。
「お疲れさまです。少し休みませんか?」
「助かる。ちょうどコーヒーが欲しかったところだ。」
デスクに置かれたカップを覗くと、泡の上に描かれた小さな猫の顔が目に入った。
丸い目、ちょこんとした三角の耳。
思わず口元がゆるむ。
「……猫?」
「ふふっ、そうです。ラテアート、かわいいでしょ?」
葵は少し照れたように笑うと、自分のカップにも手を伸ばした。
彼女の指先がミルクピッチャーを滑らかに動かすたび、 白いミルクがコーヒーの上でやわらかく踊る。
温めたミルクを細く注ぎ、スプーンの先で泡を整える。
最後におひげと目を描いて――もう1匹の猫が生まれた。
「こんなこともできるんだな……すごいな。」
「美羽ちゃんが喜ぶかと思って、ちょっと練習したくなっちゃって。」
カップを両手で包み、香りを吸い込む。
甘いミルクと深いコーヒーの香りが混ざり合い、心の緊張がほどけていく。
ひと口飲むと、まろやかな苦味が舌の奥に残った。
「美羽がこれ見たら、きっと喜ぶだろうな。」
そう言うと、葵が小さく笑った。
「そうですね。でも、美羽ちゃんにはまだコーヒーは早いかも……。」
カップの中の猫を見つめながら、葵はふっと目を細めた。
「もう少し大きくなったら、かわいいカフェラテを作ってあげたいな。」
その声は、春の陽だまりみたいにやさしかった。
窓から差し込む午後の光が、オフィスを金色に染めている。
カップを置くたびに響く小さな音と、漂うコーヒーの香り。
忙しない日常の中で、それだけが静かに時を止めていた。
「……よし、あともうひと踏ん張りだな。」
飲み終えたカップを置き、深呼吸をひとつ。
葵が隣で頷きながら、微笑む。
「はい。がんばりましょう。」
デスクの上には、ほんのりと残るカフェラテの香り。
それは小さなご褒美のように、次の仕事へと背中を押してくれた。
物語的には続きは書けますが、いったんここで終わりにします。
ここまで読んでいただきありがとうございます。




