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ありふれたひと時に、微笑みを  作者: 白熊 猫


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2/20

第2話 君がくれたお弁当

ゆるやかでほっこりした日常系の話を書いてます。

1話あたり2~3分で読める短いショートショート形式で、基本的にどの話からでも楽しめるようにしていく予定です。

楽しんで読んでもらえると嬉しいです。

「……しまった。こんな初歩的なミスを――」

机に広げた書類を前に、思わず頭を抱えた。

取引先への納品スケジュールを完全に勘違いしていた。

ついさきほど、相手先からクレームの電話が入ったばかりだ。

小さなスタートアップにとって、この失点は致命的になりかねない。

信頼を失えば、取引は途絶える。

資金繰りも、一気に苦しくなる。

原因は、他でもない自分の確認不足――社長として、情けない限りだった。

「空さん、大丈夫ですか?」

柔らかな声が、胸に染みた。

顔を上げると、秘書の葵が立っていた。

いつもと変わらない落ち着いた笑み。

けれど、その瞳の奥に、わずかな心配の色が宿っている。

「俺のミスだ。取引先にも迷惑をかけた。完全に……社長失格だな。」

自嘲気味に口にすると、葵はそっと首を振った。

「“失格”なんて言葉、空さんには似合いません。もう謝罪も対応も済ませたじゃないですか。」

「でも――」

「“でも”は禁止です。」

その言葉と同時に、彼女が一歩、俺のデスクに近づいた。

いつの間にか、距離が近い。

葵は迷いのない手つきで、デスクに包みを置いた。

「お昼、まだですよね? お弁当、一緒に食べましょう?」

包みをほどくと、二段重ねの弁当が現れた。

白いご飯の上に、ふんわり甘い卵焼き、照りのあるチキン、鮮やかな緑のブロッコリー胡麻和え――彩りも香りも、葵そのもののように丁寧で優しい。

「……すごいな。見ただけで元気が出てくる。」

「味も、ちゃんと保証しますよ? ほら、どうぞ。」

差し出された箸を受け取り、一口。

ふわりと甘じょっぱい香りが広がり、じんわりと力が戻ってくる気がした。

どんな栄養ドリンクより効く。

心の奥の冷えが、すっと溶けていく。

「……美味しい。ありがとう、葵。」

「よかった。空さん、顔が少し柔らかくなりましたね。」

その言葉に、思わず視線を上げる。

穏やかな笑顔が、まっすぐこちらに向けられていた。

その笑顔は、どんな叱責よりも深く、俺の心に響いた。

「ありがとう、葵。もう落ち込むのはやめるよ。午後から立て直す。」

「そうこなくっちゃ。私は、どんなときも空さんの味方ですから。」

昼休みが終わるころ、窓の外の光が少し明るくなっていた。

書類の山も、もう怖くない。

葵が傍にいる――それだけで、どんな失敗も乗り越えられる気がする。

「よし、もうひと仕事、頑張るか。」

立ち上がると、葵がくすっと笑った。

「その調子です、社長。」

葵の笑顔に背中を押されながら、俺は新しい資料を手に取った。

――どんなミスをしても、この人がいる限り、前に進める。

仕事も、そして……それ以外の時間も。


投稿を始めるにあたり、いくつかストックを用意しました。

ストックがある間は、複数話を同時に投稿していく予定です。

投稿は毎週土曜日の昼前を予定しています。

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