第19話 親子すき焼き
ゆるやかでほっこりした日常系の話を書いてます。
1話あたり2~3分で読める短いショートショート形式で、基本的にどの話からでも楽しめるようにしていく予定です。
楽しんで読んでもらえると嬉しいです。
「……あれ?牛肉がない。」
冷蔵庫を開けた瞬間、思わずつぶやいた。
今日の夕飯はすき焼きにしようと思っていたのに、肝心の牛肉のストックが切れていた。
「うそ……買い忘れた?」
代わりに目に入ったのは、つやつやとした鶏もも肉。
――まあ、これもありかもしれない。
「うーん……鶏肉でもきっと美味しいよね。」
軽く自分に言い聞かせるように頷いて、リビングへ戻る。
ソファでは2人して笑ながら空さんと美羽ちゃんが並んでテレビを見ていた。
「葵お姉ちゃん、今日のごはんなに?」
「すき焼き……なんだけど、今日は親子すき焼きね。」
「親子すき焼き?」
美羽ちゃんがぱちぱちと瞬きをする。
「すき焼きとどう違うの?」
「牛肉の代わりに鶏肉を使うの。初めてだけど、きっと美味しいわ。」
「楽しみ!」
キッチンに戻って、私は鶏肉を一口大に切る。
白ねぎ、春菊、しいたけ、焼き豆腐、しらたき、具材をきれいに切って並べていく。
やがて、フライパンの上に鳥を焼くと、鳥の脂がとろりと溶けた。
そこへ砂糖をぱらぱらと振り入れると、じゅうっと音が弾け、甘い香りがふわりと広がる。
しょうゆとみりんを注げば、部屋中が一瞬で美味しい匂いに包まれた。
「空お兄ちゃん、いい匂いしてきた!」
「おお……腹減ってきたな。」
二人の声を聞いて、思わず笑みがこぼれる。
煮からめた鶏肉がほどよく色づいたころ、野菜を順に入れていく。
白ねぎがとろけ、しいたけの傘がしんなりと沈んだら、もう食べごろだ。
小鉢に溶き卵を割り入れ、それぞれの前に並べる。
「じゃあ、いただきましょうか」
「「いただきます!」」
空さんが最初に箸を伸ばし、一口。
「……おっ、これはいい。鶏のうまみがしっかりしてるな。」
「ほんと! おいしいー! お肉やわらかい!」
美羽ちゃんが嬉しそうに頬をふくらませ、はふはふと息を吹きかけながら食べている。
その姿を見ているだけで、胸の奥がほっと温かくなった。
すき焼きといえば牛が定番だけど、 こうして少し違う味をみんなで囲むのも楽しい。
「これならまた作ってもいいわね。」
「うん! 次はうどんもいれたい!」
「それはいいな。」
牛肉を切らしていたのは、ちょっとした失敗。
でも、そのおかげで新しい我が家の味に出会えた気がする。




