第16話 風邪には卵がゆ
ゆるやかでほっこりした日常系の話を書いてます。
1話あたり2~3分で読める短いショートショート形式で、基本的にどの話からでも楽しめるようにしていく予定です。
楽しんで読んでもらえると嬉しいです。
「……熱い。」
小さな吐息と一緒に漏れた美羽ちゃんの声に、胸がぎゅっと締めつけられる。
そっと小さな手を握ると、ほんのりとした熱が指先に伝わってくる。
いつもよりずっと温かいその手に、彼女が本当に熱を出しているのだと改めて思い知らされる。
「美羽ちゃん、今日はゆっくり休んでね。」
私が声をかけると、美羽ちゃんは小さくうなずき、目を閉じたままかすかに鼻をすする。
朝からずっと熱が下がらず、体もだるそうだ。
病院のお医者さんは、風邪だから明日か明後日にはよくなるだろうと言われたけど、やっぱり心配になる。
早く良くなってくれるといいけど……。
私はそっと立ち上がり、キッチンへ向かった。
少しでも食べられるように何か温かくて食べやすいもの――卵がゆを作ろう。
鍋に水を張り、火にかける。
洗い立てのお米をそっと入れると、じんわりとお湯の中でふくらみ始めた。
その間に卵を割りほぐし、ほんの少し塩を加える。
お米がとろりとやわらかくなってきたころ、火を弱めて卵をゆっくり回し入れる。
湯気と一緒にふわりと立ちのぼる、やさしい香り。
「……これで、少しは元気が出てくれるといいな。」
できあがった卵がゆを小さな茶碗によそい、そっとベッドまで運ぶ。
「美羽ちゃん、起きられる?」
うっすらと目を開けた美羽ちゃんが、か細い声で、うんと答える。
まだ元気はなさそうだけれど、ゆっくり体を起こしてくれた。
「はい、あーんして?」
スプーンで口元に運ぶと、最初は小さなひとくち。
「……おいしい。」
かすれた声に、思わず微笑んだ。
少しずつ食べ進めるうちに、ほっぺの赤みがほんのり戻り、目にも元気が宿ってきた。
「葵お姉ちゃん、もうちょっと……。」
「はいはい、ゆっくりね。焦らなくていいから。」
スプーンをすくいながら、ひとくちひとくち食べさせてあげる。
やがて茶碗が空になり、美羽ちゃんはにっこり笑った。
「美味しかった。ちょっと元気出たかも。」
「よかった。まだ無理しないでね、ゆっくり寝てていいのよ。」
温かい卵がゆと一緒に、少しずつ元気を取り戻す小さな笑顔を見て、ほっと安心した。
美羽ちゃんの頭をやさしくなでながら、明日には元気になってねっと心の中でそっとつぶやいた。




