第14話 お疲れ親子丼
ゆるやかでほっこりした日常系の話を書いてます。
1話あたり2~3分で読める短いショートショート形式で、基本的にどの話からでも楽しめるようにしていく予定です。
楽しんで読んでもらえると嬉しいです。
仕事を終えて帰宅したとき、リビングの方から小さなあくびが聞こえた。
「ふわぁー……。」
テーブルに突っ伏している美羽の姿が見える。
手元には、ページの端が少し折れたお絵描き帳。
鉛筆の芯は丸くなっている。
「猫がね、何回描いてもかわいく描けないの。」
半分泣き顔でこちらを見上げるその瞳が、少し潤んでいた。
「そんなことないさ。昔よりずっと上手になってる。きっと、明日にはもっとかわいく描けるよ。」
そう言って頭を撫でると、美羽は照れくさそうに笑った。
俺も正直、今日は少し疲れていた。
会議続きで、脳みそがすっかり煮詰まっている。
そんな空気を察したのか、キッチンから葵が顔を出した。
「ふふっ、2人ともお疲れさま。今日は元気が出るご飯にしましょう。」
「元気の出るご飯?」
「うん。卵と鶏肉で――親子丼よ。」
そう言うと、葵はエプロンの紐をきゅっと結び、コンロの前に立った。
鶏肉を1口大に切り、フライパンに入れる。
じゅうっと音が弾け、香ばしい匂いがリビングに広がる。
そこへ薄切りの玉ねぎを加えると、ほのかに甘い香りが混ざり合った。
「わぁ……フライパンから、いいにおい!」
美羽が目を輝かせて、椅子の上でぴょんと跳ねる。
「ここに卵を入れると、もっとおいしくなるのよ。」
葵は優しく笑いながら、ボウルでといた卵をゆっくり流し込んだ。
とろり、とした黄色が具材を包み込み、やわらかく固まっていく。
仕上げに三つ葉をぱらり。
「はい、できあがり。」
湯気を立てて差し出された親子丼は、見るだけで食欲をそそる。
俺と美羽は顔を見合わせて、「いただきます」と声を揃えた。
1口食べる。
甘辛いだしのうま味が口いっぱいに広がり、卵のとろみが舌の上でふわりと溶けていく。
疲れが、ゆっくりと溶けていくようだった。
「おいしいー! たまごがふわふわ!」
美羽は夢中でかきこみながら、頬をいっぱいに膨らませて笑う。
「ほんとに美味しい。お店の味みたいだ。」
「ありがとう。気に入ってもらえて嬉しいわ。」
葵は軽く笑いながら言う。
その横顔が、湯気の向こうでやさしく滲んで見えた。
「葵お姉ちゃん、また食べたい!」
「もちろん。今度は美羽ちゃんもお手伝いしてくれる?」
「うん! たまご割るよ!」
2人の笑い声がリビングに響き、夜の空気をやわらかく満たす。
食べ終わったあと、ほのかにだしの香りが残る食卓を眺めながら、俺は小さく息を吐いた。
疲れはまだ少し残っているけれど、それ以上に、胸の奥にじんわりと満たされたものがある。
「……やっぱり、家のご飯が1番だな。」
ぽつりとつぶやくと、葵がにっこり笑った。
湯気の向こうで、美羽が満足そうに大きなあくびをしている。
その穏やかな光景を見ていると疲れが飛んでいくように感じた。
新作を書きました。
恋愛小説です。
1話目5分ぐらいで読める話にしてるので、ぜひこちらも読んでください!
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