第11話 おやすみホットミルク
ゆるやかでほっこりした日常系の話を書いてます。
1話あたり2~3分で読める短いショートショート形式で、基本的にどの話からでも楽しめるようにしていく予定です。
楽しんで読んでもらえると嬉しいです。
「ねえ、空お兄ちゃん……まだねむくないの。」
布団の中から、美羽の小さな声が聞こえてきた。
時計の針は、もう夜の九時を回っている。
今日も一日、外で走り回って遊んでいたのに、まだ目はぱっちりと冴えているようだ。
「もう寝る時間だぞ。」
「でも……ねむれないの。」
うるんだ瞳で見上げられると、どうにも弱い。
小さな体を抱き寄せ、髪をそっと撫でてみても、美羽はくすぐったそうに笑うだけで、寝そうな気配はない。
「……ホットミルクでも飲むか?」
「飲む!」
ぱっと花が咲くように、美羽の顔が明るくなった。
キッチンに降りて、小鍋にミルクを注ぐ。
弱火にかけると、ふわりと甘い香りが漂いはじめた。
スプーンでゆっくりかき混ぜるたびに、白い湯気が立ちのぼる。
ほんの少しだけ、はちみつを加えて味見する。
うん、美羽の好きな甘さになってる。
マグカップに注いでリビングに戻ると、美羽は毛布にくるまって待っていた。
「わあ、いいにおい!」
「熱いから、気をつけて。」
カップを両手で持たせると、湯気の向こうでほっぺたがほんのり赤く染まっていた。
「……あったかいね。」
一口飲むたびに、彼女のまぶたが少しずつ重くなっていく。
「ねえ、空お兄ちゃん。」
「ん?」
「大好き。」
その言葉に不意に胸の奥がじんわり温かくなった。
笑って「ありがと」と答えるのが精一杯だった。
飲み終えた美羽を抱き上げて、寝室へ戻る。
毛布をかけ、髪を撫でると、彼女はもう半分眠っていた。
「おやすみ、美羽。」
「……空お兄ちゃんも……いっしょに寝よ……。」
その言葉に思わず苦笑しながら、隣で横になる。
やがて、小さな手が探すように伸びてきて、俺の袖をそっとつまんだ。
静かな寝息が、部屋の中に満ちていく。
カーテンの隙間から差し込む月明かりが、淡く二人を照らしていた。
まだ少しだけ残るホットミルクの香りの中で、俺は小さく息をつく。




