第10話 やすらぎコーヒー
ゆるやかでほっこりした日常系の話を書いてます。
1話あたり2~3分で読める短いショートショート形式で、基本的にどの話からでも楽しめるようにしていく予定です。
楽しんで読んでもらえると嬉しいです。
本日ようやく、空社長は大きな仕事を無事に終わらせることができた。
新しいシステムの導入も、取引先との調整も、長引いた会議も――すべて終わったのだ。
取引先とのやり取りの最中は、いつもの凛とした表情がさらに厳しくなっていた空さんも、今は少し肩の力が抜けたように見える。
「ふぅ……やっと落ち着いたな。」
空さんが小さく息を吐き、私の方を見て微笑む。
「コーヒーでも飲みながら、ひと息つこう。」
「はい。少し甘いものも用意しましょうか。」
休憩室に入ると、私は手早く二人分のコーヒーを淹れる。
お湯をゆっくり注ぐと、豆の香ばしい香りがふわりと立ち上る。
淹れたてのコーヒーを空さんに手渡す。
「ありがとう、葵。うん……いい香りだ。美味しい。」
今日のコーヒーは、ほんの少し苦味があるけれど、口当たりはまろやかなものだ。
張りつめていた空さんの気持ちも、少しずつほどけていくのを感じる。
テーブルには、小さなクッキーも用意した。
チョコチップが散りばめられ、表面は軽くこんがり焼いている。
指で触れると、ほろりと崩れる柔らかさだ。
「いただきます。」
空さんが一口食べると、ほんの少し私の方を見て微笑んだ。
「……香ばしいな。甘さもちょうどいい。」
「バターの香りも楽しめるように、少し温めておきました。」
私もクッキーを口に運ぶ。
甘さとバターの香りがふんわり口の中に広がり、思わず目を閉じてしまう。
コーヒーを口に含み、クッキーをかじる。
カップの熱さとクッキーの甘さが、疲れた体にじんわり染み渡る。
「こういう時間もいいですね。」
「うん……2人でこうして、ゆっくりできるのも久しぶりだな。」
ほろ苦いコーヒーと甘いクッキーが、心までじんわり満たしてくれる。
窓から差し込む午後の光に包まれ、静かに寄り添うひととき。
今日は2人で少しの間だけ仕事のことを忘れて、ただゆっくりと時間を過ごす。
それだけで、胸の奥がほっと温かくなる。
このまま、時間が少しだけ止まればいいのに――心の中で、そっと思った。




