第1話 仲直りのオムライス
ゆるやかでほっこりした日常系の話を書いてます。
1話あたり2~3分で読める短いショートショート形式で、基本的にどの話からでも楽しめるようにしていく予定です。
楽しんで読んでもらえると嬉しいです。
「しまった……もうこんな時間!」
時計の針はすでに18時を回っていた。
今日も仕事が長引いてしまい、帰宅が遅くなってしまった。
息を切らしながら家の前にたどり着き、鞄の中をまさぐって鍵を探していると――。
ツインテールを揺らし、腕を組んで立つ小さな影が目に入った。
「……おそい!」
玄関の前で、保育園帰りの美羽ちゃんがぷくっと頬を膨らませて立っていた。
上着の袖をぎゅっと握って、寒さを我慢しているようだ。
「美羽ちゃん、ごめんね!仕事が長引いちゃって……!」
「もう!美羽、お外でずっと待ってたんだからね。」
「ご、ごめん……ほんとにごめん。寒かったでしょ?早くお家に入ろうね。」
慌てて鍵を開け、二人で家の中へ駆け込む。 暖かい空気に包まれた瞬間、ようやく胸を撫で下ろした。
「次からは気をつけてよね!」
「うん、次からは絶対大丈夫! ……夕ご飯はオムライスにするから、機嫌直して?」
一瞬だけ、美羽ちゃんの眉がぴくりと動く。
「……ケチャップ、いっぱい?」
「もちろん。特盛りで!」
その瞬間、美羽ちゃんはようやく口元をゆるめ、わずかに笑った。
――――――――――――――――――――
キッチンに立つと、フライパンの上でバターがじゅわっと音を立てる。
炒めた玉ねぎと鶏肉にケチャップを絡め、ご飯を加えてパラパラに炒める。
ケチャップとバターの甘い香りが、部屋いっぱいに広がっていく。
その香りに釣られて、美羽ちゃんがそっと近づいてきた。
「葵お姉ちゃん、まだできないの?お腹すいたよ。」
「もうすぐできるから、もうちょっと待っててね。」
小さな声でそう言う美羽ちゃんの頭を、私はそっと撫でた。
卵をふんわり焼いてチキンライスにのせ、仕上げにケチャップでかわいい猫を描く。
「できたよ。猫のオムライス!」
「わあ、かわいい!」
美羽ちゃんは目を輝かせて、にっこり笑った。
「さあ、夕ご飯を食べましょう。美羽ちゃん、スプーンとお茶の準備、お願いできる?」
「はーい。」
いつもはなかなかお手伝いをしてくれない美羽ちゃんも、オムライスのために今日は頑張ってくれる。
二人で食卓を整え、並んで座る。
「いただきます!」
美羽ちゃんはスプーンを手に取り、ひと口食べて頬をふくらませたまま笑った。
その顔を見た瞬間、私も思わず笑顔になる。
「美味しい?」
「うん!とってもかわいくて美味しいよ。」
――――――――――――――――――――
「ただいま、葵、美羽。」
玄関から低い声が響く。
空さんが帰ってきたのだ。
「おかえりなさい!」
美羽ちゃんが元気よく立ち上がり、空さんを迎えに走っていく。
外で待っていた時の不機嫌さは、すっかりどこかに消えたみたいだ。
「美羽ちゃんは、本当に叔父さんのことが大好きみたいね。」
私は少し苦笑いしながら、その光景を見つめる。
両親のいない美羽ちゃんにとって、空さんは父親代わりのような存在なのだろう。
そう思うと、胸の奥が少しだけチクリと痛んだ。
――いつか私が、空さんと結婚して、美羽ちゃんのお母さんになれたら――。
ふと、そんな未来を夢見てしまう。
投稿を始めるにあたり、いくつかストックを用意しました。
ストックがある間は、複数話を同時に投稿していく予定です。
投稿は毎週土曜日の昼前を予定しています。




