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【オリジナルSF小説】2060【完結】  作者: タカユキ365
第7章/最後の戦い編
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第7章/最後の戦い編

人造人間技術省の地下研究室。


工藤のスマートフォンが突然、けたたましい音を立てた。緊急速報だ。同時に研究室の大型モニターにも自動的に放送映像が映し出された。




画面に映ったのは岡田の姿だった。血走った目、取り乱した様子。警備員に押さえつけられながらも、必死に叫んでいる。




「やめろ!あと少しだ!」岡田の声が研究室に響いた。




「みんな、最後の言葉を!最後の…」




そして混乱の中、岡田が最後に放った言葉。




「親友よ!最後までこのような迷惑をかけて本当にすまない!だがこれだけは譲れなかった。そして私は日本一優秀な君ならば、この数分の誤差があろうと任務を遂行できる人間だと信じている!君に相談して、君がそばにいてくれて本当に良かった。あとは君に託した...!」




工藤は呆然と画面を見つめていた。




「なんてバカなことを…」




彼は椅子に崩れるように座り込んだ。怒りが込み上げてきた。こんなことをすれば、岡田の人生は終わりだ。犯罪者としてのレッテルを貼られ、二度と普通の生活には戻れない。


しかし同時に、工藤の胸には痛みが広がっていた。岡田の決意、その覚悟が痛いほどよく分かった。




「岡田…必ずやり遂げるよ」




工藤はモニターを見つめ直した。時刻は23時13分。あと2分で23時15分。JASのアンドロイド管理システムは定期的にその時間にメンテナンスモードに入る。そこを狙ってウイルスを送り込む計画だった。


しかし、岡田の緊急放送によって、JASがメンテナンスを延期する可能性もある。彼らもさすがに緊急事態には対応するだろう。そうなれば、セキュリティホールは閉じられ、作戦は失敗する。




「お願いだ…時間通りに進んでくれ…」




工藤の指が震えていた。彼は祈るように画面を見つめた。JASのシステム状態を監視するモニターには、まだ通常運用中を示す緑のランプが点灯している。






時計の針が23時14分を指した。




「まだか…」




工藤は唇を噛んだ。全てが無駄になるかもしれない。岡田の犠牲も、彼自身の決断も。






秒針が回り続ける。






23時15分ちょうど。




瞬間、監視モニターの表示が切り替わった。緑から青へ。


「MAINTENANCE MODE」の文字が浮かび上がる。




「入った!」工藤は思わず叫んだ。




「メンテナンスモードに入った!」




JASは対応しきれなかったのだ。恐らく現場は混乱を極め、通常のシステム運用まで手が回らなかったのだろう。




工藤は迷いなくキーボードを叩いた。ウイルスプログラムの発動だ。画面には「VIRUS DEPLOYMENT INITIATED」の文字が表示された。




「開始…」




工藤の目の前の大型スクリーンには日本地図が映し出され、各地でアンドロイドが接続されているノードが光の点として表示されていた。そして次々と、その光の点が消えていく。




「東京エリア、90%以上のアンドロイドが停止…」 「大阪エリア、85%停止…」 「北海道エリア、92%停止…」




システムが冷静に状況を報告する中、工藤は画面を見つめていた。一つ一つの光が消えていくたびに、どこかで別れの時間が訪れていることを思うと、胸が締め付けられた。




「九州全域、95%以上停止確認」 「全国平均、93.7%のアンドロイド停止確認」




最後の数値が表示されたとき、工藤はようやく深い息を吐き出した。そして椅子の背に深く身を沈めた。


「ウイルス展開、完了しました」システムが無機質に告げた。


工藤は天井を見上げた。静寂が研究室を満たしていた。




「やり切ったよ…」彼は小さく呟いた。「これで良かったんだよな…」


その言葉には問いかけのニュアンスがあった。自分自身への確認のように。数十万の人々から大切な存在を再び奪ったこの行為が、本当に正しかったのかという。




工藤の目から一筋の涙が流れ落ちた。ただ彼の表情には、終わりの安堵と、新たな始まりへの覚悟が混じっていた。


全国のアンドロイドが突然停止した翌朝、日本は未曾有の混乱に包まれた。




全てが停止してから数時間後、警察は人造人間技術省の工藤秀明と、JAS社副社長の岡田勇気を逮捕した。


テロ行為、システム妨害、国家安全保障法違反など、複数の罪状が彼らに向けられた。




各メディアは一斉に「アンドロイド大崩壊」「再会サービス崩壊の陰謀」といった見出しで報道を繰り広げた。政府は緊急記者会見を開き、事態の収拾に全力を挙げると宣言した。しかし、その場に立った大臣たちの顔には焦りと戸惑いが隠しきれていなかった。


「現時点で判明しているのは、JAS社副社長の岡田勇気氏と、人造人間技術省の工藤秀明氏が共謀し、アンドロイド全体にウイルスを配布したという事実です。彼らの動機については現在調査中ですが...」




大臣の言葉が途切れたのは、その時だった。




警察による家宅捜索が入ったJAS本社から、驚くべき文書が発見されたのである。「新人類計画」と名付けられたその文書には、人類の意識をデジタル化して一元管理するという計画の詳細が記されていた。特に衝撃的だったのは、その計画に「不適合者」として15%もの国民が排除対象となっていたことだった。




これは人類に対する計画的な虐殺とも取れる内容だった。




メディアがこの情報を報じると、世論は急速に変化し始めた。当初は「テロリスト」と呼ばれていた工藤と岡田だったが、次第に「人類を救った英雄」という見方も出てきたのである。




「彼らの行為は法を逸脱したものだが、その目的は人類を守るためだったのではないか」




「これは正当防衛の一種と見るべきではないか」




様々な議論が巻き起こる中、最も意外だったのは再会サービスの利用者たちの反応だった。




当初、政府は彼らからの大規模な抗議や訴訟の波を予想していた。しかし、JASに届いた手紙やメッセージの多くは、恨みや怒りではなく、感謝の言葉で溢れていたのである。




「本来なら二度と会えなかった母に、わずか半年でも会えたことに心から感謝しています」




「最後の別れを告げることができたおかげで、20年以上引きずっていた後悔から解放されました」




「いつまでも待ちます。どうか再会サービスをもう一度届けてください、また会いたいです」




これらの声は、悲しみの中にも希望を見出す人間の強さを表していた。




事件から数ヶ月が経つうちに、アンドロイドの倫理観、人間との共存の形、テクノロジーの発展と規制のバランスなど、これまで表面的にしか語られてこなかった問題が、真剣に議論されるようになった。






やがて、日本社会は少しずつ新たな道を模索し始めた。しかし、この事件は単なる社会現象に留まらず、関わった一人一人の人生を大きく変えていった。






彼らは各々の道を、それぞれの思いを胸に歩み始めていた——。

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