地下実験室のレトリバー金
カラフルプロダクションの地下実験室。ここは伝説の科学者、レトリバー金の聖域だった。
「よし、今日はシルBOWの感情回路を改良してみよう」
白衣に身を包んだ金が、コンピューターの前で指を踊らせる。彼女の頭の中には、常に新しいアイデアが渦巻いていた。
「感情プログラムを12.7%向上させ、暴走率を8.3%低下させる…完璧な計算だ」
しかし、金の心の奥底には、常に一人の男性の影があった。
「聖次郎…」
かつて同期だった天才科学者。お互いを認め合いながらも、次第に考えが合わなくなり、今では連絡も取っていない。
「あたしは正しい道を歩んでいる。人間とアンドロイドの共存、それこそが未来なんだ」
金の手によって生み出されたのが、マイナとプララの姉妹、そしてシルBOWだった。
「金ちゃん、今日は何を作ってるの?」
ベロスが階段を下りてくる。金は作業の手を止めて振り返った。
「ああ、ベロス。シルBOWの性格改良をしてるところだよ」
「性格改良?」
「そう。もう少し穏やかにできないかと思ってね」
その時、シルBOWが突然立ち上がった。
「私の性格に問題があるとでも言うのですか」
「い、いや、そういうわけじゃなくて…」
「爆発は私のアイデンティティです。それを奪おうというのですか」
シルBOWの目が赤く光る。これは怒りのサインだ。
「シルBOW、落ち着いて。あたしは君を否定してるわけじゃない」
「では、なぜ改良などという言葉を使うのですか」
金は困った表情を浮かべる。シルBOWの感情は予想以上に複雑に発達していた。
「君は完璧だよ、シルBOW。ただ、もう少し仲間たちと上手くやれるようになったらいいなと思って」
「…仲間、ですか」
シルBOWの表情が和らぐ。
「私にも仲間がいるのですか」
「もちろんさ。グレーケル、ベロス、ヌシP、みんな君の仲間だ」
ベロスが嬉しそうに頷く。
「そうだよ、シルBOWちゃん!私たちみんな家族みたいなものだもん」
「家族…」
シルBOWが初めて見せる、穏やかな表情だった。
その時、実験台の上で小さな爆発が起こった。
「あ、実験の続きをしなくちゃ」
金が慌てて実験に戻ると、シルBOWも手伝い始める。
「私もお手伝いします。仲間のために」
「シルBOW…」
金の表情が柔らかくなる。彼女が目指していたのは、こんな関係だった。
「あたしたちの研究が、いつか聖次郎にも認められる日が来るといいな」
「金ちゃん、聖次郎って誰?」
「あたしの…元同期の科学者よ。今はモノクロプロダクションにいるけど」
「会いたいの?」
金は少し迷ってから答えた。
「…正直、よくわからない。でも、いつかあたしの研究成果を見せてやりたいとは思ってる」
「きっと金ちゃんの凄さがわかってもらえるよ!」
ベロスの言葉に、金は微笑んだ。
「ありがとう、ベロス。君たちがいてくれるから、あたしは研究を続けられるんだ」
地下実験室に、温かい雰囲気が流れる。科学者とアンドロイド、そして仲間たち。ここには確かに、金が夢見た未来があった。