プロデューサー・ヌシPの美学
「まわれ、まわれまわれまわれ!」
カラフルプロダクションの中庭に、ヌシPの情熱的な声が響く。彼の美学は常人には理解しがたいものだった。
「アタクシの回転こそが、この世で最も美しい芸術なのです!」
全裸で事務所の周りを回りながら、ヌシPは最高のインスピレーションを探している。通りがかりの人々は呆れた視線を向けるが、彼は意に介さない。
「おい、また変態が回ってるぞ」
「カラフルプロの人でしょ?いつものことよ」
近所の住民たちも、もはや慣れた様子だ。
事務所の窓から、グレーケルが心配そうに見守っている。
「またヌシPが…」
「お姉ちゃん、大丈夫だよ。ヌシPはヌシPなりに頑張ってるから」
ベロスが慰めるように言うが、グレーケルの胃痛は治まらない。
中庭で回転を続けるヌシPの脳裏に、ふとある記憶がよぎる。
『セイン、お前は本当にバカな兄だな』
『でも、私たちの大切な兄さんよ』
かつて家族と呼ばれた人たちの声。しかし今の彼には、その記憶すら曖昧になっている。コスモブックの脅しによって、セインという存在を封印してしまったから。
「…家族、か」
ヌシPの回転が一瞬止まる。しかし、すぐに首を振って記憶を振り払った。
「いえいえ、アタクシはヌシP!最高のプロデューサーなのです!」
回転を再開する彼の姿に、どこか寂しさが滲む。
その時、レトリバー金が地下から顔を出した。
「ヌシP、実験に協力してくれる?新しい回転装置のテストをしたいんだ」
「回転装置?それは興味深いですね!」
ヌシPの目が輝く。彼にとって回転に関することなら何でも興味の対象だった。
地下実験室では、金が巨大な回転台を設置していた。
「これは『美的回転増幅装置Mark-II』だ。君の回転を科学的に分析して、より美しい回転を追求できる」
「素晴らしい!アタクシの美学を科学で証明するのですね!」
回転台に乗ったヌシPが、いつもの何倍もの速度で回り始める。
「回転速度、毎分180回転…190…200!」
「これです!これこそアタクシが求めていた究極の回転!」
しかし、その時装置が故障した。回転台が止まらなくなったのだ。
「あ、あれ?止まらない?」
「計算ミス!緊急停止ボタンが効かない!」
ヌシPは目を回しながらも、なぜか満足そうだった。
「これは…新しい美の境地です…」
「おい、大丈夫か?」
グレーケルとベロスが駆けつけた時には、ヌシPは目を回してその場に倒れていた。
「ヌシP!」
「だ、大丈夫です…アタクシは…美の追求者ですから…」
朦朧とした意識の中で、ヌシPは小さく呟いた。
「セイン…僕は…」
しかし、その言葉は誰にも聞こえなかった。
意識を取り戻したヌシPは、いつものように元気に回転を始める。
「今日の体験を活かして、さらなる美の高みを目指します!」
その奇行の裏に、彼が失った過去と家族の影があることを、まだ誰も知らない。
ただ、グレーケルだけは何かを感じ取っていた。
「ヌシP…あなたも何かを抱えているのね」