ムシャムシャ
「杏ちゃん、次の時間、移動教室だよね。そろそろ行こう!」
一人で、のんびり次の時間の準備を進めていると、湯山の机に日高がピョコンと顔を出して笑った。
断る理由もないので、当然、湯山はコクリと頷いて日高と一緒に教室を出る。
『光星君、今日も遠回りしてる』
湯山たちの高校は、わりと最近に新校舎が建てられていて、普段使用している教室は非常に綺麗だ。
理科室や美術室なんかも、新校舎の方へ完全に移転している。
そのため、旧校舎はほとんど使われていない過去の異物と化しているのだが、一応、まだ取り壊されておらず、旧・新校舎間の行き来も容易に可能だった。
「杏ちゃん」
人通りのほとんどない旧校舎の廊下で、日高が湯山の手を引いて、人目につかない階段の下へ誘い込む。
少し埃っぽい、そこで、湯山は日高に貪られた。
教室間の移動時。
昼休み。
帰り道。
デート中のふとした瞬間。
日高は隙を見つけては湯山と唇を重ね、分厚い舌を彼女へ送り込んで、甘さを味わった。
時に湯山からもねだって、貪られるだけでなく貪り返す。
普段は恥ずかしがり屋であるのに、人目のない時を見つけてはキスを求めてイチャついてくるら日高の甘えた性格が、湯山には好ましかった。
気がつけば、湯山は日高が愛しくて、好きでたまらなくなっていた。
だが、のんびり屋の湯山には、まだ自覚がなかった。
彼女が日高への恋心を知ったのは、次の金曜日以降。
翌々日のデートの予定がポンと消えたことがきっかけだった。




