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飛んで火に入る恋の虫  作者: 宙色紅葉(そらいろもみじ) 週1投稿


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6/17

ほっぺとくちびる

 汗をかいた柔い頬に、ポンと唇が押し付けられる。


 時間にすれば数秒だろうが、無味の行為が何故か甘くて、堪らなくなって、湯山は何度も日高の頬にキスを落とした。


 無心で行ったが、妙に心が満たされて止まらなくなる。


『キス、けっこう好きかもしれない』


 興奮して赤らむ頬をそのままに、小さな唇を唾液でほんの少し輝かせたまま、忙しい呼吸を漏らした。


 日高の反応が気になって、チラリと彼の表情を盗み見る。


 彼は湯山と同じような赤い顔で、恥ずかしそうにうつむいていた。


 上目遣いの彼が、潤む瞳で湯山の顔を見つめ返す。


 湯山の心臓がキュンと鳴って、ほんの少し持ち上がる口角がキスを繰り返すか迷う。


 そうしていると、日高が湯山の唇に自身の唇を重ね、柔らかさの隙間に舌をねじ込んできた。


 日高の舌が湯山の歯をつついて、中に入れてと催促をする。


 急なディープキスそお誘いに驚いた湯山は、ギョッと目を丸くしたまま、トンと彼の体を押し返した。


 すると、日高はアッサリ湯山から離れ、寂しそうにジッと彼女の顔を見つめた。


「唇はダメなんだ……」


 瞳が、傷ついたような、悲しんだような色で揺れる。

 非難された気がして、湯山はバツが悪そうに彼から目をそらした。


「だって、ほっぺはまだしも、唇はちょっと早いかなって。それに、入れようとしたでしょ」


「だって、杏ちゃん、あんまりにも俺のこと大好きってしてるように見えたから、つい、興奮して……俺のこと、嫌いになった?」


 日高はしょぼんと沈んだまま、湯山の表情を伺った。

 湯山がふるふると首を横に振る。


「ビックリしたけど、嫌いになったわけじゃないよ」


「本当?」


「本当だよ」


「じゃあ、またキスしてもいい? 今度は俺もほっぺにするから。だから、もう、拒否しないで」


 苦しそうに言葉を出す日高に、湯山はコクリと頷くと頬を差し出した。


 少し赤みの引いた頬に、日高がおそるおそる唇を近づける。


 ポンと振れるようなキスは、湯山にも、誰にも邪魔されることがないまま成功して、日高はそのまま、数度、頬にキスを繰り返した。


「杏ちゃん、好きだよ。杏ちゃんは俺のこと……」


 問いかける日高に、湯山はすぐ、

「好きだよ」

 と、にっこり笑って返事をした。


 だが、好きと返された日高は表情を曇らせている。


「多分って、つく?」


 再度、問いかけてくる日高に、湯山は少し考えて首を横に振った。


「つかないよ、ほんとに好きだと思う……多分」


「結局、多分ってついてるじゃん!」


 日高は少し腹を立てた様子で、ムッと唇を尖らせている。

 湯山は、そんな彼の顔を、厳密には、その唇をじっと見つめた。


「ねえ、光星君」


「なに? 杏ちゃん」


「私、光星君の気持ち、ちょっと分かった。興奮して、色づいて、ポッテリとした唇が、なんでか少し濡れてて、かわいい。おいしそうで、あむってしたくなる。いい?」


 日高の唇に指を沿わせて問う。


「いいけど、そしたら、俺、さっきのするよ? 杏ちゃんはいいの?」


「いいよ。さっきも驚いただけで、嫌だったわけじゃないから」


 湯山の返答を聞いて、日高がそっと彼女を抱き寄せ、その唇にキスをする。


 唇どうしで柔らかさを味わい合う時間は一瞬で終わり、すぐに日高の舌が湯山の口内へ潜り込んでくる。


 湯山もお返しで日高の口内へ自分の舌を送り込んだ。


『甘い。さっき飲んだジュースの味がする』


 彼の舌が自身の舌に触れて、思う。


 湯山が初めてのキスに初々しい感想を抱いていると、既にだいぶ興奮した日高の舌が、嬉しそうに彼女の舌に絡んで、きつく擦った。


 ピタリとくっつき合っていない、二人の唇の間にある空間から、湯山が甘い吐息を漏らす。


 そうすると、日高はますます興奮して、さらに積極的に湯山を貪った。


『キス、難しい。されるがままだ』


 よく分からないまま、甘い刺激を受け取り続ける。


 数分後、ようやく解放された湯山が潤む瞳で告げたのは、

「もうちょっと……」

 という、酷く甘えた催促の言葉だった。

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