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懸念

 湯山の不安。

 それは、いまひとつ日高に「ドキドキしないこと」だった。

 日高に対し、安心感や明確な親愛、好意を覚えることができても、ときめきを覚えられない以上、湯山にはソレが、恋愛感情なのか、友愛的感情なのか、判別がつかなかった。

『彼氏ができるのは初めてだけど、別に、初恋ではないはず。一応、今までも好きな人はできたことがあるはずだから。それで、その時は、相手の方を見るだけでドキドキした。でも、光星くんには、それがない。代わりに、じんわり心は温まるけど』

 湯山は少しの間ベッドに寝転がって考え込むと、やがて、スマートフォンを使って調べものを始めた。

『恋愛、あんまり、ドキドキしない相手……検索っと』

 真っ先に頼る相手がインターネットというのも、少々むなしい話だが、湯山には恋ばなをできる友達も少ないし、そもそも、この相談事はあまり人に話したくない。

 できれば一人で解決したかったから、湯山は文字だらけの液晶に向き合った。

 AIの概要を読み、いくつかのサイトに潜り込み、時に個人のブログなんかも読んで、一時的にでも答えを求める。

 気がつけば一時間が経っていた。

『総評、ドキドキしないけど安心する相手への恋は、低刺激で安定的な大人の恋。スケベなことをできるなら、それは友達とかじゃない好きでいい。なるほど、光星君と、スケベなことか』

 湯山は恋愛初心者だが、だからといって、流石に性知識まで小学生で止まっているわけではない。

 身体的、性的な触れ合いを妄想した。

『光星君に弄くられて、大変なことにされる……まあ、別にダメじゃないかな。少なくとも、想像するだけで嫌ってなるわけではない。むしろ……ネットの言うことが正しいなら、私、光星君のこと、大好きになれるのかな』

 改めて、記事を読み込む。

 ときめかない恋愛に対し、肯定的な意見を読んでいると、相手を大切にできる可能性が見えて嬉しくなり、少しだけ安心できた。

『少し良かった、けど、それにしても、ときめかなくても安心できる相手は手放さないで! 運命の人の可能性があるから!か。随分と勝手な言い草だ。自分次第では、相手の時間を大きく奪うことになってしまうというのに。まあ、その考えに乗っかった私の言うことではないかもしれないけれど』

 苦笑いを浮かべて、スマートフォンを閉じ、ベッドの上で仰向けに寝転がる。

 酷く疲れたせいか、頭の奥がどんよりと曇って、鈍く痛んだ。

 目をつむっても眠れる気はしなかったが、それでも、心は安らいで気持ちが良かった。

『誠実には、誠実を返したい。光星君の目や言葉、とても真っ直ぐだったから。叶うなら、誠実に愛を返したい。でも、だからといって無理やり他人を好きになることもできない。今、私にできるのは、光星君に向き合うことだけだ。よく彼を見て、自分の心の動きを追って、彼にどういう感情を持っているのか、探るだけだ』

 もしも、数週間後、自分が、

「やっぱり貴方のことは好きじゃないから別れて」

 と、告げれば、彼は泣いてしまうだろうか。

 酷く傷ついて、落ち込んでしまうだろうか。

『そんなの、嫌だな。光星君には、きっと涙よりも笑顔が似合う。のほほんとした、穏やかな笑顔が。それに、光星君が痛いのは嫌だ』

 けれど、相手の泣き顔を見たくないがために自分の心を偽り、他者を騙すような不誠実な優しさを、湯川は持ち合わせていなかった。

 湯川は無意識のうちに手を組んで眠っていた。

 その姿は、まるで、なにかを祈るようだった。

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