物思い
湯山と日高は、帰る方角が一緒だ。
そのため、二人は途中まで手を繋いで行き、それから、分かれ道で、さようならをした。
『多分……疲れた』
自宅に入った瞬間、一気に体が重くなって、湯山は自分が酷く疲れていることを悟った。
洗面所で手を洗ってから、ノロノロと自室に向かい、ポテンとベッドの上で横になる。
『日高光星君……かぁ』
帰り道で、よく見せていた、彼の真っ赤なはにかみを思い出す。
トクンと心臓が鳴るわけではなかったが、どこか安心感を覚える手は好ましかった。
『もう少し、繋いだままでも良かったかも。なんて、流石にそれは上から目線過ぎか』
自分に苦笑いを浮かべ、一人に戻った手のひらを眺める。
少しだけ、温もりが恋しかった。
『日高光星君。多分、私の好みのタイプを凝縮した人』
湯山は、「友達からでいいので付き合ってください」、という言葉を、じゃっかん取り違えたまま、返事をして彼と恋人になった。
流されるようにして、あまり知らないクラスメートの彼女になってしまったわけだが、だからといって、日高への思いが一切ないわけではない。
むしろ、湯山は日高を積極的に好んでいなかったものの、なんとなく彼が気になって、たまに目線を送っていたりした。
だからこそ、湯山は彼からの申し出を勘違いしながらも受けたのだ。
『私にだって好みはある。付き合うなら、こういう人がいいって、タイプも』
湯山の好みは穏やかで優しくて内気な人だ。
集団の中で、たまに返事をしながら、はにかんでいるような人。
そして、女性に積極的に迫られたら、顔を赤くして逃げ出してしまうような人。
言ってしまえば、臆病で警戒心が高くて、恥ずかしがりやで、多少、疑心暗鬼ぎみではあるものの、危機回避能力の高い人間。
それこそが、湯山の好みの男性像だ。
『日高君とは、そこまでたくさんしゃべった訳じゃない。そこに彼を当てはめちゃうのも、よくないのかもしれない。でも、好みの気配を感じる』
ギュッと抱きついてきた癖に、手を繋いで外を歩くのは恥ずかしいという感覚が不思議で、何故かちょっぴり愛おしい。
うつむいて、はにかみながら歩いていた姿を思い出すと、心臓がほっこり優しく温まった。
『少なくとも、手を繋いで帰りたいと思えるくらいには好きだ……多分』
再度、繋いでいた手のひらをLEDライトに照らして、ギュムッと握り込む。
スマートフォンに入り込んだ日高の連絡先から、メッセージが来るのが待ち遠しい程度には、想いもある。
だが、それでも、湯山には『多分、好き』を抜け出せない懸念があった。