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飛んで火に入る恋の虫  作者: 宙色紅葉(そらいろもみじ) 週1投稿


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14/17

絡む粘着と鈍感な罪

 合流した日高は、固い表情を浮かべてた。


「ねえ、光星君」


 話しかけても上の空で、そのくせ、力だけは強く湯山の手を引いて、グングンとアスファルトの道を進んでいく。


「我慢できない」


 ボソッと日高が呟いた。


 その瞬間、湯山が問い返す間もなく彼女は路地裏に引きずり込まれて、気がついた時には唇を塞がれていた。


 いつも通りの深いキスは、普段よりもずっと激しくて強引だ。


 互いを貪り合うはずが、日高だけが一方的に湯山を味わって、彼女の舌先を痛いほどに吸い付けたり、擦ったりしている。


『痛い……』


 快楽もあったが、それ以上に口内に広がる痛みと、ぶつかり合う歯、そして、様子のおかしい日高自信のことが気になる。


 うまく酸素を吸えない影響か、鈍くなる頭の中で、湯山はボーッと日高に思いを巡らせながら、少しだけ彼を貪り返した。


 やがて、満足したらしい日高が湯山から唇を離し、彼女の顔を見つめる。


「やっぱり、杏ちゃんは俺が大好きだ。目がトロンとしてて、ものすごく潤んでる。かわいい」


 湯山の目尻にたまった涙をぬぐって、日高が笑う。


 それから、彼は、

「俺も杏ちゃんが大好きだよ」

 と、嬉しそうに笑って、湯山の体を抱き締めた。


 少し前までとうって変わって、日高はひどくご機嫌な様子だが、湯山は安心よりも不安を覚えた。


「ねえ、光星君」


「なに? 」


「光星君、どうしたの?」


「なにが?」


「なにって、様子が変だよ」


 湯山が不安の混じった表情で告げれば、日高は一瞬だけ固まって、それから寂しそうに眉を下げた。


「くっつくの、嬉しくない? 俺のこと、好きじゃない?」


「いや、くっつくのも、光星君のことも好きだけど、そうじゃなくて……」


 噛み合わない会話に困惑した湯山が、次の言葉を探して口ごもる。

 そうしていると、変わらずに不安そうな表情をした日高が、湯山に抱きついたまま、彼女の服の中に手を滑り込ませた。


「キャッ! コラ、光星君! 駄目だよ!!」


 突然の暴挙にギョッと目を丸くした湯山が、慌てて日高の腕をつかみ、自信の服の中から引きずり出す。


 日高の手は、下着にまで潜って、彼女の柔さかさを味わう寸前だった。


 拒否され、叱られた日高が、そのまま湯山を抱く力を強め、今度は彼女の尻に手を伸ばす。


「駄目だってば、光星君!!」


 湯山を弄ぶ日高の腕を再度つかみ、涙の浮かぶ瞳でキッと彼を見つめる。

 すると、日高も涙目で湯山を睨み返した。


「なんで駄目なの! やっぱり、俺のこと好きじゃなくなったんでしょ! だから、触られるのも嫌で、今日だって、加藤と一緒に遊びに出掛けたんでしょ!」


「違うよ。光星君のことは、好きだよ。触られるのが嫌なんじゃなくて、場所が駄目なの! いくら人目が少ないとはいえ、ここ、外だよ! こんなとこで、そういうことしたら痴漢的な行為になっちゃうでしょ! それに、加藤君に関してはなんか誤解してない?」


「誤解してない!」


「してるよ、なんか勘違いしてる、絶対に」


 湯山が若干あきれたような態度で、決めつけた言葉を出せば、日高は余計に頑なになって首を横に振った。


「してない! 杏ちゃんはさ、俺に怒って、それで、あてつけでお出掛けしたんでしょ。加藤がいるグループでわざとお出掛けして、それで、段々あっちの方がいいなって思ったんでしょ! 加藤の方がたくさん喋るし、俺みたいに泣かないし、約束、破んないから!」


「だから、それが微妙に誤解なんだって。私は、そもそも今日、女子だけでお出掛けする予定だったの。それが、急に田中君と佐々木君、それに加藤君まで来ることになって。そりゃあ、光星君とのデートがなくなったからって、それで友達と遊ぶ予定は入れたよ。でも、女の子だけのつもりだったし、別に加藤君目当てじゃないよ。私、加藤君苦手だし。なんでそんなに加藤君にこだわるの?」


 グルグルと唸り、涙目になる日高にため息混じりに言葉を返せば、彼は、「だって……」と口ごもる。

 だが、少しすると日高は重たい唇をゆっくりと開いた。


「俺がさ、前に、俺以外にも杏ちゃんを好きなやつがいるって言ったの、覚えてる?」


「え? あー、うん、多分」


「それが加藤なんだよ。本当に知らなかったの?」


「え? う、うん」


 急な間接的告白に湯山は目を丸くし、それから、半信半疑な様子で頷いた。

 日高の目つきが酷く鋭くなる。


「じゃあさ、杏ちゃん、友達には俺と付き合ってるって言ってある?」


「え?」

 一見すると、加藤の話とは関係のないように思える質問に、湯山が虚をつかれて固まる。

 そんな彼女を、日高は険しい表情でジッと見つめていた。


「多分、言ってない」


「なんで?」


「なんでって、機会がなかったから? わざわざ人に言うものでもないと思ったし、聞かれたらで良いかなって。それに、最近は光星君にベッタリだったから、まあ、言わずとも伝わるかなって思ってたし」


「それで、肝心の加藤は俺と杏ちゃんが付き合ってるって知ってたの?」


「いや、知らなかったけど。だって、加藤君は別に友達ですらないし、そりゃあ、私の恋愛事情なんて知らないと思うよ」


 そこまで答えると、険しい表情のままの日高が不意に湯山の顔へ手を伸ばし、彼女の柔らかい頬を軽くつまんだ。


 そこまで痛いものではないが、驚きで湯山の体に衝撃が走る。


 湯山の心臓がバクンと跳ね上がった。


「最低。彼氏がいるのに男がいる遊びに参加したのも、友達に俺のことを言っておかなかったのも、全部、最低。多分、加藤が急に来たのはさ、杏ちゃんに接近するためだよ。杏ちゃんの友達、誰も杏ちゃんが俺と付き合ってるって知らなかったから、変なお節介焼こうとして、加藤を呼んだんだと思う」


「えぇ……そんなことあるかな。単純にダブルデートしようとしてたところに、加藤君が入り込んだだけだと思うけど」


「ふぅん。でも、カップル二人組と残りの一組って、なんか怪しい感じするけどね。フードコート出る時さ、何て言って出てきたの? 急用とか、そういう言い方したの?」


 日高がジロリと湯山を睨みつける。


 既に剣呑な雰囲気をぶつけられ続けていた湯山だったが、とびきり強い怒りを投げつけられて、彼女はビクリと肩を跳ね上げさせた。


 背中に冷たい汗が流れる。


「いや、あの、普通に光星君に呼ばれてるっていったよ。そのときに、彼氏だって伝えたし。『なんで日高が?』って聞かれたから。それに、今日、加藤君にも、光星君が彼氏だって言ったし」


 湯山がモゾモゾと言い訳をするように言葉を連ねる。

 すると、日高は怒ったままではあるものの、少し溜飲を下げた様子で、「ふぅん」と相づちを打った。


「不可抗力でも、なんでも、俺がいるのに男と遊びに行ったこと、謝って」


 日高がポツリと震えた声で言葉を出す。


「それは……ごめんなさい」


 湯山が素直に謝罪すれば、日高は「うん」と小さく頷いた。


 日高は少し落ち着いた様子で、ほんの少しだけ気を緩めて湯山に抱きついている。


 だが、同時にその姿は、対象を決して逃さぬよう獲物に巻き付く蛇のようでもあった。


「ここが外だから、さっきは拒絶したの?」


 服の上から、日高がちょこんと胸をつく。


「さっきって、あの、エッチなアレ?」


 胸を触られ、顔を赤くした湯山が、しどろもどろに問いかけた。


「そう。外じゃなかったら、触って、触らせて良いの? 浮気してない、俺から心が動いてないって証明できる?」


 真っ直ぐ湯山を見つめる日高の瞳は、どこか焦点があっておらず、不安そうなままだ。


 湯山はつられて不安な気持ちになったが、それでも彼が好きで、触れ合うのだって楽しみにしていたことだったから、コクリと頷いた。


「そっか。それなら、家に行こう。前も言ったけどさ、今日はずっと、家に誰もいないんだ。誰も」


 ポツリと呟くように告げて、日高は再び、一方的に湯山の手を引く。

 家に着くまで、日高は数度、湯山の方を振り返って、それから無視をするように前を向き、ひたすらに道を歩いていた。

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