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飛んで火に入る恋の虫  作者: 宙色紅葉(そらいろもみじ) 週1投稿


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もう一方の思い悩み

 日高が心臓を焦りと恐怖で、びしょ濡れにした理由は単純だ。


 彼が友人らと訪れていたフードコートに、偶然、湯山も来ており、しかも、彼女の友達集団の中に男性が三名いたのである。


『田中と佐々木は大丈夫。だって、それぞれ彼女がいるから。というか、彼女が二人とも同席してたから。でも、加藤は、加藤は……! どうしよう、俺、今からでも』


 平然とした態度を保てないほど、脳内が湯山への不安で埋め尽くされていく。


 一方、日高の恐怖や葛藤など露知らぬ湯山は、フードコートで友人らと食事を続けていた。




 午前中は買い物をして、昼には休憩も兼ねてフードコートで食事をとる。


 友達との楽しいお出かけのはずが、彼女らが、それぞれの彼氏とその友人の加藤を連れてきたものだから、湯山はテンションが下がってしかたがなかった。


『別に、遊ぶ人数を増やしたのも、それが男子だったのも、この際、いいよ。でもさ、彼氏とばっか喋られると、私が取り残されて困っちゃうというか。それに、加藤君が話しかけてくれるけど、なんというか、加藤君……』


 自身の隣に陣取る加藤をチラリと見て、吐きそうになった溜め息をジュースと共に飲み込む。

 すると、自分に視線を送ってきたのだと感じた加藤が、興奮気味に口を開いた。


「杏さ、マジでコイツら仲良いと思わね? なんかコイツら、ディ○ニーデートとかしてるみてーだよ、しかも、男側の奢りで」


「高校生でそれはすごいね。バイトとかしてるの?」


「そうそう。彼女のためっつって、バイトぎっしり入れたみてーよ。マジで田中も佐々木も彼女できて男上がったわ。やっぱ、男は甲斐性だよな!」


 良い話ではあると思うが、加藤の大きな声や態度、強く共感を求める雰囲気が嫌で仕方がない。


 湯山は、「二人とも頑張ったんだね」と、無難に言葉を返すと、昼食に購入して、まだ残っていたポテトを齧った。


 すると、湯山の反応が小さかったのが想定外だったのか、加藤は少しの間だけ視線をうろつかせた。


「て、てかさ、美樹も柚衣もマジで良い女だし」


「そうだね、二人とも優しくて素敵な子だと思うよ」


 コクリと頷いて、ほとんど空になったジュースをすする。


『やっぱ、加藤君苦手だ。きっと悪い人じゃないんだけど、なんか、個人的に、不快で不快で仕方ない。ろくに話したことないクセに呼び捨てしてくるところも、お前って二人称も、男、女って言い方も、全部ムカつく。これが光星君だったら、光星君が光星君の言い方で話してたら、癒しにしかならないのに』


 気がつけば日高のことばかり考えていて、今、彼は何をしているんだろうとか、気まずいまま日にちが経過してしまったとか、そんなことばかり考えていた。


『友達とお出かけ、つまんないし、というか、午前中は比較的、楽しかったけど、でも、光星君と一緒だったらもっと楽しかったんだろうな、とか、そんなことばっか考えちゃった。私、毎回こうだ。光星君と一緒の時間を過ごして、満たされてる時は気がつかないのに、デートなくなって、寂しくなったとたんに光星が大好きだったことに気がつかされた。金曜とか、土曜とか、散々いじけて、すごく気になってた光世君への想いに気がつけたのはいいんだけど、でも……』


 相変わらず、日高には甘えたいが甘えたくない。


 前のように仲の良い関係に戻りたいが、なんて声をかければ良いのか、あるいは、どのタイミングで連絡を取れば良いのかすら、分からない。


 湯山は、思わず飲み込みきれなかったため息を吐いた。


「お、どうした、杏、恋煩いか?」


 加藤が茶化すように問うてくる。


 湯山は、うんざりとしたまま、「まあ」と頷いた。


 その返事に、加藤は目を丸くして驚いている。


「マジで! 杏、好きなやついんの!? 誰々!?」


「光星君。好きな子というか、付き合ってる」


「マジで!? 光星なんていたっけ? てかさ、それで溜め息って、何? 光星とかってやつにストーカーでもされてんの?」


「違うけど。さっきも彼氏だって言ったし、何がどうすると、その発言になるの」


「いや、だって、光星って確か日高だろ。アイツ地味で目立たねーし、なんか、犯罪者みたいな雰囲気するじゃん、おとなしい系で大人になって暴れるみたいな」


「全くしないけど。優しくて、かわいいし。大切な彼のこと、バカにしないでくれる?」


 気まずくなっていても、ドタキャン騒動で怒りを募らせていても、それでも湯山は日高が好きだ。


 そのため、加藤の言葉に腹を立てると、湯山は彼をギロリと睨み付けた。


 怯んだ加藤が目を泳がせて、

「そんなキレることじゃねーだろ」

 と、一人言のように言葉を溢す。


 しかし、怒り冷めやらぬ湯山は、カップに残っていた小さい氷を口に放り込むと、ガジガジ噛み砕いて、気分転換にスマホを開いた。


『光星君?』


 五分前に送られていたらしい、メッセージの通知に首をかしげて、それから、湯山はロック画面を外した。

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