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飛んで火に入る恋の虫  作者: 宙色紅葉(そらいろもみじ) 週1投稿


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ドタキャンの理由と後悔

 日高は中学生の頃、付き合っていた彼女に浮気をされている。


 理由は、あってないようなもので、当時、中学三年生だった彼女には、二つ年上で高校に通う先輩が、妙に魅力的に見えたのだという。


 反面、同級生で甘えん坊気質、やきもち焼きの日高が酷く子供っぽく見え、嫌気がさしたのだとも話していた。


 こういった、相手からの裏切りによる失恋は、多感で身勝手な中高生の恋愛では、ままあることなのかもしれない。


 幸いというべきか、日高には多くの友人がいたから、彼女の愚行を我が身のことのように憤り、彼を励ます者も少なくなかった。


 日高も初めは酷く落ち込んでいたが、自分を元気づけようとする友人らを見て、

「ありがとう、いつまでも悩まずに次に進むよ」

 と、明るい笑顔を浮かべるようになった。


 彼の前向きな様子に、周囲もホッと胸を撫で下ろしたものだ。


 だが、しかし、表面上の日高の回復に反して、実際に彼の心が上向きになることはなかった。


 日高は一途に彼女を愛していて、真っ直ぐ信頼し、尽くしていたから、浮気を知った時には全身に死をちらつかせるほど絶望したのだ。


 それを、周囲に心配をかけぬため、自分を励ましたいという気持ちに答えるためと、無理に回復させようとしたものだから、かえって心を粉々にしてしまった。


 友達の前では、

「次は、もっと可愛くて誠実な女の子を捕まえるぞ!」

 なんて、軽くふざけて笑って、きたくすれば裏切りを思い出して咽び泣く。


 彼女への恨み言を吐いて、


「自分がもっと格好良かったら」


「大人っぽかったら」


「束縛的なところがなかったら」


 などと、頓珍漢に自分を責めて、数度、己の頭を叩く。


 日高は、壊れてしまった。


 中学三年の夏、不登校ぎみになって、高校進学すらも危ぶまれ、人生が壊れかけた。


 だが、そうやって転落する前に、日高に対し、そっと手を差し伸べてくれた人物がいた。


 それが、高校進学と同時に他県へ引っ越してしまった、日高の親友であり、恩人でもある佐藤智也さとうともやだった。


 佐藤は、引きこもりがちになる日高の家に、よくやってきては、一緒にゲームをして遊んだり、外へ連れ出したりしていたのだ。


 学校と日高を繋ぐ、重要な橋渡し役でもあり、重要な行事や進学情報、期末試験の詳細などを伝えていた。


 また、日高が学校に復帰してからも勉強の面倒を見たり、メンタル面にフォローをいれたりと、何かと手助けを続けていたのだ。


 日高は、現在の自分が何ら不自由なく高校に進学し、人並みの人生を歩めているのは、間違いなく佐藤のお陰だと思っており、今も、彼に深く感謝を捧げている。


 今回、湯山とのデートをドタキャンしたのも、他ならぬ佐藤が、

「久しぶりに皆と遊びたい」

 と、日高を含む多くの友人らに声をかけたからだった。




『杏ちゃん、今頃、何してるんだろう』


 中学の頃から、よく集まって騒いでいたフードコートの一角で、日高は小さくため息をついた。


 馴染みの男友達ばかりの、気楽で楽しい空間。


 佐藤に、中学の頃の礼と現在の幸せを伝えたくて、楽しみだった日曜日。


 周囲の仲間は、はしゃいでいるというのに、日高は落ち込んでばかりで、時には、

『友達とお出掛けするって、杏ちゃん言ってたけど、まさか、その中に男はいないよね。万が一にも、浮気してたりは……』

 なんて考えては、青ざめ、心の中で必死に首を横に振って恐怖を否定することに躍起になっていた。


『家でデートくらい、別の日でもできるからって、つい、今回は佐藤を優先しちゃった。でも、杏ちゃん、すごく怒ってた。あんなにデート楽しみにしてたなんて、知らなかったな。俺、自分の都合ばっか優先して、彼女傷つけて……浮気された時と変わんない、バカな子供のままだ。どうしよう、俺のせいで、また捨てられる』


 日高の心は自責の念と後悔でいっぱいだ。


 じわっと涙が浮かびそうになったが、友達の手前、必死に堪えて談笑にまざった。


 明るく笑う日高の肩を、ポンと佐藤が叩く。


「なあ、日高、お前、大丈夫か?」


 ボソッと耳打ちする佐藤は、酷く真剣な表情を浮かべている。


「え? なにが?」


 図星をさされたような気がして、心臓を跳ね上げたが、なるべく平静をよそおって首をかしげた。

 日高の表情や態度に、佐藤が眉間に皺をよせる。


「なにがって……なんつーか、お前、多分、今、無理してるだろ」


「してないよ。別に元気だし、無理するようなことも起きてないし」


「でも、なんか今、お前から中学の頃のお前と同じような気配を感じた。なあ、もしかして今日の集まり、無理して来たんじゃねーのか? 俺が、忙しくて今日くらいしか遊べないっつって皆のこと誘ったから、それで、日高も俺らに気を遣って、用事があったり、体調悪かったりしたのに、無理矢理、ここに来たんじゃねーのか?」


 佐藤は人間に対して、適切な観察力を持っており、勘も鋭い。

 日高は、再びザックリと図星を刺され、虚をつかれたが、それでも、一瞬の間を置くとフルフルと首を横に振って、ニッと明るく笑った。


「全然! 大丈夫だよ。俺だって、前より少しは成長してるし。だから、大丈夫。ただ、確かに、ちょっと腹の調子は悪くてさ、下しぎみなんだよね。トイレ行ってくる」


 同様を落ち着かせるため、そして、自分の態度と佐藤の疑念のつじつま合わせをするため、日高は適当な嘘をついて、離席した。


 そして、それから、約十分後、日高は楽しそうな態度に放心した心を詰め込んで、友人らのもとに帰ってきた。

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