第98話 ロシェの告白(後編)
鬼頭は自暴自棄になっていた。目の前に転がっていたはずの復讐のチャンス、それを掴もうと用意周到に計画を進めていたのに、あと一歩のところで踏み外したからだ。彼の目は狂気と焦燥に満ちていた。俺を睨みつけながら、その表情はまるで堕ちた神のようだった。
「くそ………せっかくのチャンスだったのに」
彼は低く呟いた。
「俺がここまで準備をして、完璧な計画を立ててきたというのに、どうして最後の最後でこうなるんだ………?」
そして急に声を荒げはじめた。
「もう理由なんてどうでもいい!」
「魔粒子爆弾をヒルトハイムに落とす。世界中から非難を浴びようが、ハイエルフの王に嫌われようが、そんなことはどうでもいい。どうなっても構わない…ただお前が苦しむのを見るために、俺はそれをやる!」
彼の言葉には深い絶望が滲んでいた。それは、すべてを失った者だけが発する、死んだような声だった。しかし、俺は黙って彼の狂言を聞いているつもりはなかった。
俺はすでに手を打っていた。彼がこんな状況に陥ることを予測していたからだ。冷静に鬼頭を見つめながら、俺は思い返した。実は、『総統の耳』からとある情報を得ていたのだ。
鬼頭はハイエルフの王の男妾だ。これは広く知られていること、公然の秘密ってやつだ。しかし王から与えられたその地位には一つの条件があった。それは、ハイエルフの王以外の者と、関係を持ってはならない、ということ。
だが、鬼頭はその禁を犯していた。奴は世界中で密かに愛人を作り、さらにその中から生まれた子供たちを集め、自分の手元で再教育を施していた。彼らは奴の手で飛空艇のパイロットに仕立て上げられ、奴の軍事力の中核を担っていたのだ。
「鬼頭、お前はもう、終わっている」
俺は静かに告げた。
彼は一瞬、動きを止めた。その目には怪訝の色が浮かんでいる。
「何を言っている?」
鬼頭は苛立ちを隠せず、俺に詰め寄る。
「お前のことは、総統の耳を通じてすでにハイエルフの王に伝えてあるんだよ」
俺は冷淡に言った。
「お前が世界中で浮気を繰り返し、数々の子供を作って、その中から優秀な者を選んでパイロットに育て上げていたことをな。ハイエルフの王の男妾でありながら、王以外と関係を持つことが禁じられているにも関わらず、だ」
鬼頭の顔が一瞬で青ざめた。彼の手が震え、言葉を失った。
「なぜ………それを……」
彼は小声で呟いた。
鬼頭は言葉を失い、その場に崩れ落ちた。彼の目は絶望に染まり、完全に敗北を悟ったかのようだった。
「ヒルトハイムに魔粒子爆弾は落とされることはない。お前の計画は失敗したんだ」
と俺は冷たく言い放った。
鬼頭は地面にひざまずき、震えながら呟いた。
「馬鹿な…どうして俺は…こんな…」
彼の言葉には力がこもっていなかった。彼の狂気は崩れ去り、すべてが終わった。
翌日から、彼の姿を見た者はいない。




