第96話 ロシェの告白(前編)
俺を戦争犯罪者として裁くための戦争裁判は、俺がハイエルフの国に連行されたその日から始まった。毎日、昼は裁判所で罪を問われ、夜には冷たい牢屋で過ごす生活が続く。裁判の場では、常に俺は「史上最悪の独裁者」として非難され、弁解の余地すら与えられなかった。
その生活が始まり数日が経過した日の夜、俺は牢の中で眠れずにいた。裁判の冷徹な視線、そして俺が追い詰められていく現実。それらが頭の中をぐるぐると巡っていた。その時、突然牢の扉が静かに開いた。
「レオン、久しぶりですね」
暗闇の中から、声が聞こえた。灯りが差し込むと、現れたのはロシェだった。彼は穏やかな口調で俺にこう告げた。
「もう気づいているかもしれませんが、私もあなたと同じ転生者です」
その言葉に、俺は別に驚きはしなかった。ロシェが転生者であることは俺も予想していた。
彼はしばらく黙ったまま、俺の顔を見つめていた。俺を驚かせたのは、彼が次に口を開いた言葉だ。
「私の――いや、俺の転生前の名前は鬼島 玲司だ。覚えているか? お前が知っている鬼頭だよ」
その名を聞いた瞬間、俺の中で全てが凍りついた。鬼頭――それは俺がこの世界に転生する原因を作った男だ。
「お前が……ここに?」
ロシェ――いや鬼頭は微かに笑った。彼の顔に浮かんだ笑みは、とても冷徹なものだった。彼は話し始めた。俺にとって、それは衝撃の事実だった。
「俺は、お前より300年も前にこの世界に転生していたんだ。信じられないかもしれないが、本当の話さ。俺が転生した姿は、エルフの男だった。エルフとして生きることになったときは、正直驚いたよ。それも転生した先は、このハイエルフの国だった」
鬼頭は淡々と続けた。だが、その内容はまるで悪夢のようなものだった。
「この国では、日本と違って明確な身分の上下関係がある。エルフはハイエルフの奴隷なんだ。お前は知ってるか? ハイエルフは変態なんだ。美しい顔立ちを持つ者は、男であっても性奴隷にされる。俺は特に顔立ちが整っていた。それが災いして、数え切れないほどのハイエルフに弄ばれたよ。男にも女にもな」
彼の語る過去は、俺の予想をはるかに超えていた。鬼頭は200年以上も屈辱的な生活を強いられ、ハイエルフたちの慰み者になっていたという。
鬼頭は言葉を淡々と紡いでいたが、その裏に秘められた怒りや絶望が、言葉の一つ一つに込められているのを感じた。果てしなく長い屈辱の日々が、彼の心をどれだけ蝕んでいたのか、想像もできなかった。
「でも、ある日チャンスが訪れた。ハイエルフの王の目に留まってな。俺はあいつの『お気に入り』になったんだ。それから先のことは、お前も知っているだろう?」
ロシェの目が冷たく光った。彼は続ける。
「俺はハイエルフの王に取り入り、やっと武器に触れることができる身分になった。そして、いろんな武器を作った。魔法銃も、飛空艇も、そして……核爆弾を参考にした兵器もだ。それを『魔粒子爆弾』と名付けた」
その兵器の名を聞いて、俺の背筋は凍りついた。やはり、核に匹敵する兵器を作り上げていたのか。
「充実した生活だったよ。だが、俺は孤独だった。誰も俺の正体を知らない。俺の真実を分かち合える仲間がいなかったんだ。」
鬼頭の目が深い悲しみを帯びていた。
俺は、何も言えずに彼の言葉を聞いていた。




