第94話 『総統の目』の凶行
魔王軍をなんとか撃退し、ヒルトハイムに一瞬の平穏が訪れたかに見えた。だが、その安堵の息を吐く間もなく、最悪の事件が起きた。
辺境都市でマルセルたちを監視していた『総統の目』が、マルセルらを含む辺境都市の住人全員を皆殺しにしたのだ。約10万人もの住民が殺戮されたという報告が俺の耳に届いた時、頭の中が真っ白になった。
「皆殺しだと?」
その言葉が何度も脳内で反響する。俺は頭を抱えた。どうしてこうなったのか。なぜ、こんな惨劇が起こったのか。
原因は、ヒルトハイムが西方諸国と魔王軍に挟み撃ちにされているという情報がマルセルたちに漏れたことらしい。それを知ったマルセルたちは、再び立ち上がるチャンスだと考えたのだ。ヒルトハイムが弱っている今こそ、俺を倒して王国を取り返そうと、またしても暴動を起こしたという話だ。
もちろん、マルセルたちはまともな武器など持っていなかった。それでも数の力で、暴動を展開した。しかも、今回の暴動は今までとは違った。まるで何かに突き動かされるかのように、彼らは狂気に満ちた殺意で襲いかかってきたらしい。
辺境都市を取り締まる『総統の目』も、ミュラー流剣術をマスターした部隊だ。マルセルたちの暴動など、最初は簡単に鎮圧できると思っていたらしい。だが、マルセルたちの勢いは予想を遥かに超えていた。次々と押し寄せる暴徒たちに、総統の目は徐々に追い詰められていった。そして、状況が急速に悪化する中で、彼らはやむを得ず、マルセルたちを生かしたままでは暴動を鎮圧できないと判断した。
「だから皆殺しにしたのか……」
俺は、この報告を聞いてすぐに理解した。これは大問題だ。たとえ相手が犯罪者であっても、10万人を皆殺しにしたとなれば、国際社会が黙っているはずがない。ましてや、戦時中とはいえ、捕虜を含む民間人の大量虐殺は、どんな正当な理由があっても許されることではない。
俺は冷静に考える必要があった。このままではヒルトハイムが全世界から非難されるのは時間の問題だ。そうなれば、西方諸国連合や他国の軍勢が一斉に我が国に攻め込んでくるだろう。もはやヒルトハイムを守るためには、戦い続けることは不可能だった。
「降伏するしかないか……」
苦渋の決断だった。だが、これが最善の手だと俺は悟った。俺は直ちに西方諸国連合に対し、降伏を宣言する準備を始めた。
ヒルトハイムを守るために、俺は全てを捨てる覚悟を決めた。




