第91話 背後から迫る魔王軍の影
西方諸国連合の連合軍を退け、俺たちヒルトハイム軍には一瞬の安堵が訪れた。兵士たちは疲れ果てていたが、勝利の余韻が彼らの心を癒やしているようだった。だが、その束の間の平和は、まるで幻のように儚かった。
――魔王軍が攻めてきたのだ。
「あり得ない……!」
俺の頭の中は一瞬真っ白になった。なぜだ? 停戦協定の期限はまだ1年以上残っている。魔王軍が攻めてくるはずがない。それなのに、なぜ……?
「彼らの言い分は……ヒルトハイムが先に停戦協定を破った。だから我らも停戦協定を破り、ヒルトハイムに攻め込むのだ。というものです……」
部下のオズオズとした声が耳に届く。彼の言葉が、俺の思考を現実へと引き戻した。確かに、停戦協定では、魔王国及びヒルトハイム王国の両国が他国と戦争をすることも禁じられていた。
そしてヒルトハイムは西方諸国連合と戦った。しかし、俺たちは西方諸国連合に攻め込まれたから応戦しただけにすぎない。にもかかわらず、魔王軍はその機を逃さずに総攻撃を仕掛けてくる。
「くそっ……こんな形で協定が裏目に出るとは」
俺は苛立ちを抑えきれなかった。
それにしても、なぜ魔王軍が西方諸国連合との戦争を知り得たのか。おそらくロシェが密かに魔王軍に情報を流したに違いない。奴はどこまでも俺たちを追い詰めるために策を巡らせていた。憎らしいほどに狡猾だ。だが、今さらそのことに怒りを感じている暇はない。
「総統! 魔王軍はすでに東部国境を突破しつつあります!」
兵士の報告に、俺はすぐに態勢を整える必要があると感じた。状況は悪化の一途を辿っている。いくら西方諸国連合の第一陣を撃退したとはいえ、いつ第二陣が攻め込んでくるか分からない。西方諸国連合への警戒は絶対に怠るわけにはいかない。その状態で、東側から魔王軍が攻めてくるとは、最悪のタイミングだ。
しかも、今回の魔王軍はただの小競り合いではなかった。彼らは全軍を総動員し、総攻撃の準備をしている。かつて俺たちが相対した魔王軍とは規模が違う。まるで全てを飲み込むかのような勢いで迫ってきていた。
「まずいな……」
俺は深くため息をついた。西の警戒を怠ることはできないが、東で魔王軍と対峙する準備も必要だ。
このままでは、二正面作戦を強いられることになる。魔王軍と西方諸国連合、双方を相手にしなければならない状況が目の前に迫っていた。選択肢は限られている。どちらかの敵に集中しなければ、全てが崩壊するのは時間の問題だ。
「すぐに軍を再編しろ。西方の守りは一部に任せ、残りを魔王軍の迎撃に集中させる。」
俺は冷静に指示を出すが、内心では焦りが募っていた。ヒルトハイムは岐路に立たされている。もしここで誤った判断をすれば、国は滅びるだろう
「ロシェ……」
奴が裏で操っている。そう確信しつつ、俺は再び立ち上がり、次の手を考え始めた。




