第90話 戦争の幕開け
俺がヒルトハイムに戻った、ちょうどそのころ、西方諸国連合が宣戦布告してきた。
ヒルトハイムの空は、どんよりとした灰色に覆われていた。まるでこの地に訪れる嵐を予感させるような空模様だった。街には不穏な空気が漂い、兵士たちの緊張した表情が見える。俺もすぐさま軍に指示を飛ばし、戦いの準備を整えた。油断すれば、この国は瞬く間に飲み込まれてしまうだろう。
戦闘準備を進めると同時に、俺の頭の片隅には常にロシェの存在があった。奴の持っている"あの兵器"――もしそれが投入されるなら、戦局は一瞬で傾く。俺の心の奥に冷たい緊張が走る。
だが、幸運なことに最初に攻めてきたのは、西方諸国連合の中でもドワーフの国とケンタウロスの国の連合軍だった。ロシェの兵器はまだ姿を見せていない。この状況ならば、今の俺たちには対処できる。
ドワーフは確かに人間よりも圧倒的に力が強いし、ケンタウロスの機動力と魔力も脅威だ。しかし、ヒルトハイム軍にはミュラー流剣術がある。それに加えて、俺たちは何十年も魔王軍との戦争を生き抜いてきた戦士たちだ。反対にドワーフとケンタウロスは、ここ50年ほどは戦争を経験していない。俺たちの足元にも及ばないことは明白だ。
戦場に出たヒルトハイム軍は、まるで嵐のごとくドワーフとケンタウロスの連合軍を蹴散らした。ドワーフの大振りな斧はことごとく俺たちの剣で受け流され、瞬時に反撃されていた。ケンタウロスも、圧倒的なスピードで突進してくるが、我々の兵はそれを見切り、華麗に回避してみせる。鋭く統率された動きと、剣術の流麗さが、敵軍を次々と崩していく。ヒルトハイム軍の兵士たちは圧倒的な強さで敵を屠り、彼らを戦場から追い払った。
だが、戦争はまだ終わらない。次に現れたのは、ハイエルフの飛空艇だった。彼らは空中を主戦場とし、魔法銃で地上の我々を一方的に攻撃してくる。通常の軍ならば、この状況ではひとたまりもない。空からの攻撃に対応する術はないからだ。だが、それはあくまで「普通の軍」の話だ。
「ゴーレム部隊、対空兵器、展開!」
俺の命令に従い、ヒルトハイム軍のゴーレムたちが一斉に動き出す。対空攻撃用に訓練された彼らは、飛空艇に向けて巨大な石を次々と投げ始めた。
ゴーレムを使った投石攻撃――それが我々の秘密兵器だった。普段は列車を牽くゴーレムを戦場でも活用する。それは以前にも説明したとおりだが、俺は対空攻撃にも彼らを活用しようと考え、密かに訓練を行っていた。ゴーレム部隊は十分に訓練されており、その射程距離は魔法銃よりもはるかに長い。飛空艇の装甲は軽量化されているため、ゴーレムの巨大な石が直撃すればひとたまりもない。実際、飛空艇は地上から攻撃されることなど考慮していない。その油断が、彼らの命取りとなった。
空に浮かぶ飛空艇に向けて、ゴーレムたちは次々と巨石を投げつけた。石は飛空艇に直撃し、装甲を破壊していく。次々と墜落していく飛空艇の姿を見ながら、俺は勝利を確信した。空中からの脅威を排除したことで、ヒルトハイムの防衛は確固たるものとなった。
こうして、戦争の第一ラウンドは我々ヒルトハイムの勝利に終わった。しかし、これが終わりではない。次は、ロシェがどんな手を使ってくるか分からない。彼の動向に常に目を光らせながら、俺は次なる戦いに備えた。




