第89話 二つの国を背負う者
ヒルトハイムとエルダンシア――二つの国の総統となった俺は、すでにこれまでの人生では味わったことのない責任感を感じていた。だが、それでいい。覚悟はとうの昔に決めていた。これが俺の道だ、迷いはない。
エルダンシアの議会から正式に総統の委嘱を受けるため、俺はエルダンシアに向かった。
エルダンシアに到着した俺は、国を挙げての熱烈な歓迎を受けた。街の広場には人が溢れ、旗や飾りがあちこちに揺れている。正直、こういった対応はあまり得意じゃない。だが、総統として国民の信頼を得るためには必要なものだろう。俺は深く呼吸をして、周囲の人々に応えるようにゆっくりと手を振った。
俺は議会のある五ノ町へ向かった。建物は壮麗で歴史を感じさせる造りだ。高い天井と重厚な装飾が施された石の柱が、エルダンシアの権威を象徴していた。
議会の中で正式に委嘱状を受け取った瞬間、エルダンシアの総統としての責務が俺にのしかかる。重い、だがこれが俺の選んだ道だ。ヒルトハイムと同じように、エルダンシアも近代化を進め、国民全員が政治を学べる教育制度を整える必要がある。やるべきことは山積みだ。これから始まる新たな挑戦に向け、俺はすぐに動き出す準備を進めた。
だが、ここで一つ大きな問題が持ち上がった。西方諸国連合の加盟国各国から俺宛に『総統の職を辞退するように』との文書が、次々と届き始めたのだ。
なぜか。俺が密かに各国に送り込んでいる『総統の耳』からの情報によれば、ロシェが裏で糸を引いているという。奴が各国に働きかけ、俺の総統就任を阻止しようとしていたのだ。
「なぜロシェがそんなことを……?」
意味が分からなかった。だが、今さら立ち止まることはできない。エルダンシアの民が俺を必要としている以上、俺は引き下がらない。やるべきことをやる、それだけだ。
広場に国民を集め、演説を行う。集まった数万人の視線が一斉に俺に注がれる。俺は肉体強化魔法で声に魔力をのせ、まるで雷のような声で語りかけた。
「この国は変わる! 俺が導く! 君たちが安心して暮らせる国をつくるために、俺は全力を尽くす!!」
演説の後、群衆から大きな歓声が上がった。民衆の目が輝き、恍惚の表情を浮かべている。彼らの期待が俺にのしかかるが、今の俺にとっては、それも心地よい重圧だ。
総統としての最初の仕事は、エルダンシアの制度を整えることだ。ヒルトハイムで成功した近代化政策をここにも導入する。まずはエルダンシアの経済を活性化し、国民の生活を安定させることが最優先だ。
しかし、そんな俺の計画に割って入るように、『総統の耳』から緊急の情報がもたらされた。西方諸国連合がヒルトハイムに対して軍備を整え始めたというのだ。ロシェの影響か、それともまた別の思惑か。いずれにせよ、事態は急を要する。
俺は急ぎエルダンシアを後にし、ヒルトハイムへ戻ることを決断した。道中、頭の中には不安と怒りが渦巻いていた。せっかく訪れたヒルトハイムの平和が、再び戦火に巻き込まれるかもしれない。
そして俺がヒルトハイムに到着したその瞬間、西方諸国連合からの宣戦布告が届いた。
「なんでこんなことになっちまったんだ……」
だが、今さら宣戦布告された理由を考えてもしょうがない。俺は冷静に、そして確固たる決意を胸に、対抗策を考え始めた。今こそ、総統としての真価が問われるときだ。




