第86話 決戦の平原
俺たちの軍は、王都近くの広大な平原に布陣した。ここでマルセル軍を迎え撃つのだ。
ただの草原。何の特徴もない、単調な風景だ。戦場としては極めてシンプル。ここで戦えば、戦力の差がそのまま結果に出るのは明らかだ。
目を凝らすと、遠くにマルセル軍が見える。奴らは勢力を拡大し、予想以上に兵を集めてきた。王やマルセルに味方した貴族や文官、そしてエルフの商人たちが思っていた以上に多かった。彼らの私兵が集まり、これらの大軍になったのだろう。俺の政治改革に不満を抱く者や、古い利権にしがみつく者たちが、これほどの数になるとは思わなかった。
だが、ここで引くわけにはいかない。
「兵数は互角……か……」
俺の軍、ヒルトハイム軍の主力はミュラー流剣術を習得した剣士たちだ。訓練された兵士たちは誇り高く、機動力では圧倒的に優れている。だが、マルセル軍の主力は最新式の魔法銃を装備した魔法銃兵たち。火力の面では明らかに向こうが上だ。草原という平坦な地形で戦う以上、正面からぶつかればこちらが不利な状況になるのは明らかだった。
俺は額に手を当て、思考を巡らせた。普通に戦えば、レオン軍は確実に押し負ける。だが、この戦いに勝利しなければ、王都が危機に陥る。状況は逼迫していた。
だが、俺には最後の切り札があった。そう、ゴーレム兵だ。
リリィが作り上げたゴーレム兵。普段は鉄道を牽く彼らを、有事の際に兵器として使用する計画をしていた。まだ実験段階だったが、今回の戦場に投入することを決断した。今回の戦にはたったの三体しか用意できなかったが、それでも十分だった。
俺は近くにいた部下に指示を送る。
「ゴーレム兵を出撃させろ」
大地が揺れる。遠くの森の端から、重厚なゴーレムの姿がゆっくりと姿を現した。巨大な岩石の体躯。だが、それはただのゴーレムではなかった。ミュラー流剣術を極めた兵士が、ゴーレムの背に乗り操縦している。肉体強化魔法を応用し、ゴーレムに魔力を流すことで、自分の体のように操ることができる。まるでパワードスーツのように、その巨体を自由自在に動かせるのだ。ゴーレムの本来のパワーに加えて、肉体強化魔法が上乗せされ、さらに兵士の操縦によって圧倒的な機動力が実現された。
戦場に現れたゴーレム兵たちの姿を見た時、マルセル軍の兵士たちは明らかに動揺していた。彼らが誇る魔法銃兵は、火力では最強だったかもしれない。しかし、あの岩石の巨兵を目の前にした時、全てが変わった。
ゴーレム兵が動き出した。その圧倒的な力で、次々とマルセル軍の前線を蹴散らしていく。剣術を極めた操縦者たちは、まるでゴーレムそのものが生きているかのように素早い動きを見せ、ゴーレムに持たせた石のナイフで敵兵を切り伏せていった。
「やはり、リリィの技術は天才的だな」
俺は戦場の遠くからその光景を見つめ、冷静に勝利を確信した。ゴーレム兵はあまりにも強かった。たった三体の試作兵器が、戦場全体の流れを変えていく様子を目の当たりにしながら、俺は心の中でリリィの手腕に感謝していた。
マルセル軍は次第に混乱し始め、統制を失っていった。彼らの魔法銃はゴーレムの硬い装甲を貫くことができず、逆にその鋭い剣技と巨大な腕によって蹴散らされていく。絶望が広がる様子が、戦場全体に染み渡っていた。
「この戦い、終わらせるか」
俺は部下に手を振り、総攻撃の指示を出した。レオン軍の剣士たちは、ゴーレム兵の後を追ってマルセル軍を追撃する。戦場に広がるのは、俺たちの圧倒的な勝利だった。
数時間後、戦場に残ったのは無数の倒れた敵兵と、俺たちレオン軍の勝利の歓声だけだった。マルセル軍は敗走し、王都を取り戻すための反乱は、ここに終焉を迎えた。
「…終わったな」
戦場を見下ろしながら、俺は心の中で呟いた。だが、この戦いはほんの始まりに過ぎない。俺はまだ、この国を守るためにやらなければならないことが山ほどある。そして、リリィのゴーレム技術も、これからさらに改良を重ねる必要があるだろう。
俺は再び歩き出す。次なる戦いのために。そして、この国をより良い未来へ導くために。




