第84話 ゴーレム鉄道の完成披露と忘れられない夜
ゴーレム鉄道が完成した。ヒルトハイムの国民たちの期待を背負いながら進めた巨大プロジェクトが、ついに形を成した。巨躯のゴーレムがゆっくりと鉄道車両を引く姿は、圧倒的な光景だった。それだけで人々はこの新しい時代の到来を肌で感じ取ったようだ。
完成披露会は、どこか冷たい風が吹き抜ける青空の下で行われた。周囲の木々は赤く染まり、秋の深まりを感じさせたが、俺たちの熱意はその寒さを打ち消していた。各国に送った招待状に応じ、各国の代表者たちが続々と集まった。国王自らが訪れることはなかったが、国王補佐官クラスの要人たちが到着し、彼らを国賓として迎え入れた。ヒルトハイムの巨大ゴーレム鉄道を初めて見た彼らは驚愕の色を隠せない。俺はその反応を見て、成功を確信した。
そして俺は各国の代表が見守る中、今後の鉄道網の拡充計画、さらにはエルダンシアとヒルトハイムを結ぶ国際鉄道の構想を発表した。彼らは目を見開いて驚いたよ。
披露会が無事に終わると、俺の身体には疲労が重くのしかかっていた。俺は自室へ戻り、一人で酒を嗜みながら体を休めた。部屋の中には静けさが漂っていた。窓から見える星空がどこか心を落ち着かせてくれる。手に持つグラスの冷たい感触と、口の中で広がる酒の熱が心地よかった。
そこへ、ふいにノックの音が響いた。入ってきたのは、ハイエルフの国から来ていたロシェだった。そう、ハイエルフの国からの来賓は、ロシェ・リヴィエールだったのだ。彼は控えめに微笑みながら、俺の部屋に入ると、俺が勧めるままに隣に腰を下ろした。髪は銀色に輝き、薄手のローブに身を包んだ彼はどこか神秘的で、威厳と気品を感じさせた。
「お疲れのようですね、レオン総統」
ロシェは美しく静かな声で言った。
「まぁな」
俺は軽く笑い返した。
「長い一日だったよ。でも、ロシェが来てくれて嬉しかった。ありがとう」
俺たちはその後、少しずつ酒を飲みながら、いろんな話をした。政治の話、戦争の話、そして肉体強化魔法についての話。どれも興味深い内容だったが、次第に話はこの世界の技術へと移っていった。
俺はふと思いついて、ロシェにこう聞いた。
「飛空艇だが、あれは風魔法じゃなくて、重力魔法で動いているんじゃないか?」
ロシェの目がわずかに光った。そして、意外にもすぐに答えが返ってきた。
「その通りです。実際、飛空艇は重力魔法によって浮いているのです。あなたは、重力の概念も理解できているのですね」
正直に言って、この世界の住人が、重力の概念を理解できるとは思っていなかった。だが、ロシェの言葉には迷いがなかった。さらに彼は、飛空艇以上に画期的な技術を活用した「爆弾」を開発しているという話まで持ち出してきた。俺の中で、何かが点と点を結び始めた。
酒が進む中で、俺はもしかしてロシェも転生者じゃないか? と疑い始めた。
だが、俺が問うより先に、ロシェが言葉を切った。
「あなたはまるでこの世界の人間ではないようだ。もしかして、伝説の転生者じゃないですか?」
俺は驚いた。だが、酒の勢いもあったせいか、あっさりと「そうだ」答えてしまった。
そして気づけば、俺は自分のことを話していた。日本で警察官をしていたこと。ひょんなことから、この世界に転生したこと。そして、政治家を目指していた夢が、この世界でようやく叶ったこと。
ロシェは黙って、真剣な表情で話を聞いていた。彼が何を考えていたのかは分からない。だが、その夜の空気には、奇妙な親近感が漂っていた。
俺は最後にロシェが転生者かどうかを聞こうと思ったが、その問いを発する前に酒が回り、眠気が襲ってきた。疲れもあったのだろう、その夜はそれで終わりになった。
翌朝、ロシェは俺に何も言わずに国へ帰っていった。俺は特に何も思わなかった。ロシェが転生者かどうかは、また次に会った時に聞けば良い。そんな風に甘く考えていたんだ。




