第77話 ロシェ・リヴィエール
夜になり、俺は豪華すぎる部屋に一人で座り込み、静かに深い溜息を吐いた。この広々とした部屋、金と装飾に彩られた豪奢な空間は、確かに一流の国賓をもてなすに相応しいだろう。だが、今の俺にはその贅沢さが重荷だった。使い切れない広さが孤独を際立たせ、窓の外に広がる夜の景色もただの暗闇にしか見えない。
このままではまずい。今日の会議の様子からして、停戦協定は破棄される可能性が高い。それだけではなく、俺自身も罰せられるだろう。最悪の場合、俺を処刑して、停戦協定そのものを闇に葬るつもりかもしれない――そう考えると、冷や汗が背中を伝った。
「どうする…?」自分に問いかけても、答えは出ない。ここまで来たら、もはや俺一人の力で何とかできる問題ではない。だが、打開策を見つけなければならない。それは、俺の生き残りだけではなく、ヒルトハイムの国民を守るためでもあるのだ。
しかし、どんなに考えても良い案は浮かばない。思考は堂々巡りを繰り返すばかりで、焦燥感ばかりが募っていく。
そんな時だった。不意に扉が静かに開く音が聞こえた。
「失礼するよ、レオン殿」
入ってきたのはエルフのロシェ・リヴィエール。彼は、昼間の会議にもいたハイエルフ王の側近で、天才発明家としても知られている男だ。魔法銃やさまざまな魔導具を作り出し、その技術力と名声は世界中に知れ渡っている。彼がどうして俺の部屋にやってきたのか、一瞬理解が追いつかなかった。
彼の姿は、まるで彫刻のように美しかった。二重の大きな目は可愛らしさを感じさせるが、その奥に隠された知性が鋭く輝いている。まっすぐに通った細い鼻筋、上品にとがった顎。頬は少しこけているが、それが逆に彼の精悍さを際立たせていた。銀色の長い髪は艶やかで、首筋にかかるその流れは、まるで絹糸のように柔らかく光を反射している。
男だと分かっていても、なぜか心がざわつく。あまりに整った容姿に、間近で見ると、つい息を呑んでしまう。
「…どうして、ここに?」
俺は意識して声を落ち着けた。
ロシェは、微笑みながら部屋の中に進んできた。
「君の発言に、非常に興味を持ってね。昼間の会議での君の言葉――もう少し詳しく聞かせてくれないか?」
ロシェの目は優しくもありながら、その奥には好奇心が光っていた。俺は深呼吸し、彼に正直に答えた。ここで隠し事をしても、彼には全て見透かされてしまいそうだったから。彼には全て話さないといけないような気がしたんだ。
ロシェは、俺の話を真剣に聞いてくれた。彼の質問は鋭く、的確だった。彼が何を考えているのかは分からないが、少なくとも俺の考えに耳を傾け、深い興味を持っていることは確かだった。
「なるほど。君の理想論は、面白いし説得力がある。だが、それをどう実現するかが重要だな。会議に出席している王たちは、全てが自国の利益しか見ていない。彼らにとって、君の意見は理想の押し付けでしかないのかもしれないね……」
ロシェは最後にそう言って、満足そうに微笑んだ。そして、何も言わずに部屋を出て行った。
その時、俺はただ彼の背中を見つめるしかできなかった。彼が何を考えているのかは分からないが、少なくとも俺に敵意は感じられなかった。
そして翌朝、俺が会議に出席すると、驚くべきことが起こっていた。ハイエルフ王の様子がまるで別人のように変わっていたのだ。昨日の冷たさや威圧感は影を潜め、その眼差しには何かしらの思慮が込められているように見えた。
俺は状況を理解するのに必死だったよ。




