第76話 戦争の理由と各国の思惑
西方諸国連合の会議は、俺にとって地獄の始まりだった。
ヒルトハイム王が、停戦はすべて俺のせいだと言ったので、俺は豪華な会議室の中心に立たされた。全ての視線を一身に浴びる。まるで罪を犯した犯罪者のように、冷たい空気が背筋を這う。ハイエルフの王を中心に各国の王たちが並んで座っている。ドワーフ、ハーフリング、ケットシー、ケンタウロス。どの国の王も、俺を疑わしげに見つめていた
最初に口を開いたのは、ドワーフの国の王だった。短躯でありながら威圧的なその男は、鋭い目で俺を睨みつけながら低い声で言った。
「貴様のせいで、武器が売れなくなるんだぞ。ヒルトハイムは我々の一番の顧客だ。戦争が終わるってことは、我が国の主力商品である武器の買い手がいなくなるということだ。貴様のせいで我々の国の経済が崩壊しかねん!」
その言葉に続くように、他の国々の王たちも次々に俺に文句を浴びせ始めた。ケットシーの国の王は怯えた顔で語った。
「ヒルトハイムが戦争を止めたら、次に攻められるのは私たちだ。非力なケットシーには、魔王軍に対抗する手段がない。だからこそ、ヒルトハイムがずっと戦争をしてくれることが私たちの安全を守る唯一の手段だったんだ」
各国の王たちの言葉を聞きながら、俺は胸に広がる苛立ちを抑えようと必死だった。彼らは皆、自国の利益しか考えていない。戦争を続けさせることで、彼らは自分たちの経済や安全を守ろうとしているに過ぎない。だが、俺の口からそんな言葉が出る前に、ハイエルフの王が冷たい声で問うてきた。
「弁解はあるか?」
ハイエルフの王。彼はハイエルフの中でも特に強大な魔力を持つと言われている存在で、他の王たちと比べても圧倒的な威圧感を放っていた。彼の目が俺をじっと見つめ、まるで全てを見透かしているような鋭さがあった。
やるしかない。かなり不利な状況ではあるが、やるだけやってみよう。俺は言葉を選んで反論しようとした。しかし、その瞬間、ハイエルフの王の冷ややかな声が再び響いた。
「おい、声に魔力を込めるな。」
俺はその瞬間、自分が無意識に肉体強化魔法を使っていたことに気づいた。興奮と緊張が俺の体に反応し、力が溢れ出していたのだ。ハイエルフの王は、他人の魔力の流れを見ることができるのだろう。彼の目は冷たい光を放ち、俺を射抜いていた。その眼差しには、怒りも慈悲も感じられなかった。ただ、静かに、全てを超越した者の力が存在していた。
俺は息を整え、冷静さを取り戻した後、肉体強化魔法を使わずに言葉を紡いだ。
「自国の経済や安定が重要なのは分かります。しかし、それ以上に世界が平和であることが最も重要です。どこかで戦争が続けば、いずれ自国もその火の粉を浴びることになる。国民が常にその恐怖にさらされている状況が本当に理想なのでしょうか?今回の停戦は、世界平和に向けた第一歩です。それこそが、長期的には全ての国にとって有益なのではないでしょうか」
俺の言葉が響き渡った会議室に、一瞬の静寂が訪れた。しかし、すぐにドワーフの王が鼻で笑い飛ばした。
「理想論だ。現実を知らない若造が」
他の王たちも、俺をただの青二才として見下し、俺の意見を一蹴した。彼らの反応を見て、俺は一瞬、無力感に襲われた。しかし、俺は拳を握りしめて耐えた。ここで折れるわけにはいかない。
結局、その日の会議はそこで終了した。ハイエルフの王の一声で会議は打ち切られ、各国の王たちは退席していった。明日、最終的な判断が下されるという。
俺は、静かに閉じられる会議室の扉を見つめながら、自分の限界と戦っていた。




