第74話 英雄の影と重圧
俺がヒルトハイムに戻ってから、世間の風向きはすっかり変わっていた。国民は俺を英雄として讃えられるようになった。戦争を終わらせた男としてね。
戦争が長く続き、国民はみな疲弊していた。そんな時に三年の停戦協定を結んだ俺は、彼らにとって救世主だった。街に出るたびに、誰もが感謝の言葉をかけてくる。それはそれで悪い気はしない。しかし、俺の胸の中では、ずっと重いものが渦巻いていた。
一方で、宮廷内の雰囲気はまるで真逆だった。マルセルは、焦りを隠しきれず、顔をしかめながら何かを考え込んでいる。国王も、俺に対してイライラを隠さず、鋭い視線を送ってくる。彼らが何をそんなに焦っているのか、その時はまだ分からなかったが、俺が「停戦を成立させた」と言う事実は、どうやら彼らにとって都合の悪いものだったようだ。
どうして彼らはそんなに戦争を続けたがっているのか? このことをあの時もっと深く考えていれば、違う結果になったかもしれない。だが、あの時の俺は、三年後に兄と魔王が一騎打ちをすることしか頭になかった。兄をパワーアップさせる、それが今の俺にとって唯一の使命のように感じていた。ヒルトハイムの未来は、俺の兄にかかっている。
魔王の姿を思い出すと、全身が震えた。あの圧倒的な存在感――身体の大きさも異常だった。身長はおそらく10メートル以上、しかもその全身が恐ろしいほどの筋肉で包まれていた。そんな化け物とまともに戦うには、兄をパワーアップさせるだけじゃ不十分だ。魔王に匹敵するような大型の武器も作らなければならない。従来の武器では、魔王に傷一つつけられない可能性もある。職人たちと話し合い、どうやって魔王を倒すかを考える日々が続いた。
だが、その日常は唐突に中断された。西方諸国連合の国王たちが集まる会議に、俺が呼ばれたのだ。理由は単純。俺が「勝手に」停戦協定を結んだからだ。彼らにしてみれば、戦争の終結は予期せぬ事態だったのだろう。
胸の奥が冷たくなるのを感じた。この時まで俺は、戦争は魔王軍とヒルトハイム軍とだけでやっているものと想っていた。しかし事実は違った。俺が勝ち取った停戦は、ヒルトハイムだけでなく、西方諸国全体に大きな波紋を引き起こしていたのだ。




