第73話 命運を握る者
三年間の停戦。それは確かに勝ち取った。だが、その代償は大きい。俺の心にずっしりと重くのしかかっていた。吸血鬼のバザルですら、魔王がこの提案を受け入れたことに驚きを隠せない様子だった。
「まさか、魔王様が人間の提案を飲むとは……… でも本当にいるんですか? 魔王様と一騎打ちできる人間なんて」
バザルの言葉には、冷ややかな期待のなさがにじんでいた。この約束がいかに無謀であるかは、俺が一番理解していた。それでも、この三年間の猶予を使って、どうにか魔王を倒す手立てを見つけなければならない。それしかなかった。俺はヒルトハイムへ戻る道を急いだ。
ヒルトハイムに到着すると、すぐに王の前へ向かった。緊張感が漂う中、俺は報告した。
「三年間の停戦が成立しました」
その一言で、王もマルセルもその部下たちも驚きの表情を浮かべた。部屋中が一瞬にして静まり返る。
「三年も…本当に?魔王がそれを受け入れたというのか?」
王は信じられないという表情で俺を見つめる。マルセルも同様だ。
「はい。実は魔王軍も長期の戦争に疲弊していたようです。彼らもこのまま戦い続ける余力はないと感じたのでしょう」
俺は淡々と返答した。
王やマルセルは一様に驚いた表情を浮かべていたが、それでこの話は終わった。だが、肝心の一騎打ちの話は、ここでは封印する。王もマルセルも知れば「魔王との一騎打ちで勝つなんて無理だ。そんな話は無しにしろ」と言われるに決まっていた。
報告を終えた後、俺は兄であるルイスのもとに向かった。今、ヒルトハイムで最強の戦士はルイスだ。三年後、魔王と一騎打ちをするのもルイスになる。彼には真実を伝えなければならない。
「兄さん、実は…」俺は、停戦の話から一騎打ちの条件まで、全てを打ち明けた。
ルイスは静かに全ての話を聞いてくれた。そしてゆっくりと頷いた。
「そうか…なら、俺がやるしかないな。大丈夫だ。三年後、差し違えてでも魔王を倒してみせるさ」
ルイスの言葉は優しく、そして力強かった。その決意が俺の胸に深く響いた。ルイスは迷いもなく、自分の命を賭ける覚悟を示してくれたのだ。
だが、俺は分かっていた。この時のルイスの実力では、魔王相手に勝つのは不可能だ。あの圧倒的な魔力と存在感。俺は実際に目の当たりにしているから分かる。いまの兄では瞬殺されて終わるだろう。それは確実だ。
だからこそ、残された三年間が重要だ。ルイスにはより強くなってもらう必要がある。そして、ただ強くなるだけでは足りない。魔王と対等に戦えるような特別な武器も必要だ。時間はあるが、足りるかどうかは分からない。しかし、やるしかないのだ。
ヒルトハイムの命運は、ルイスの手にかかっている。そしてその背中を俺が押し続けるしかない。それが今の俺にできる唯一のことだ。
三年という時間は短い。それでも、俺たちは最善を尽くすしかない。そのために、全てを賭けようと誓った。




