第7話 覚醒
ゴブリンと向き合った俺は、盾を地面に捨て、両手で片手剣をしっかり握りしめた。慣れ親しんだ剣道の中段の構えを取る。この姿勢が、俺の心を落ち着かせ、何か特別な感覚を呼び起こしてくれる気がした。
剣道には「気剣体の一致」という言葉がある。相手を斬るためには、気――つまり心――と剣、そして体、この三つが完全に調和して初めて、真の一撃が生まれる。日本で剣道をやっていた頃は、そんなの当たり前にできていると思っていた。だが、どうやらそうじゃなかったらしい。この異世界の戦場で、俺はその本当の意味をようやく理解し始めたようだった。
俺は心を研ぎ澄ませた。この場に漂う恐怖、混乱、焦り、すべてを無視し、俺自身の意識だけに集中する。ゴブリンの邪悪な笑みも、他の敵の存在も、すべてが遠ざかる。目の前にいるのは、この一匹のゴブリンだけ。奴を倒すことだけが、今の俺の使命だ。
不思議な感覚が俺を包み込んだ。まるで心、剣、体が完全に一つに融合したような感覚だ。「気剣体の一致」が完成したのだと実感する。
勝てる。この瞬間、妙な自信が湧いてきた。剣を持つ手の震えも、膝の震えもすっかり消えていた。俺は先手を取ろうと決意し、全力で地面を踏み込んだ。その瞬間、大きな力の流れが体に入ってきた。俺はその力をそのまま剣に伝え、ゴブリンへと一気に突き進んだ。
足から強烈なエネルギーが体全体に流れ込んでくる。まるで大地そのものが俺に力を与えているかのようだった。そしてその力を、自然と剣に伝える。体が軽い。剣は重いはずなのに、まるで空気を切り裂くかのように振り抜ける。
次の瞬間、俺の体は地面に転がっていた。
「何だ、これ……っ!」
俺はその力を制御しきれなかった。思っていたよりも体が早く動いてしまった。着地に失敗したのだ。力がありすぎたのか、それともただの俺の未熟さか。剣の振り下ろしと体の動きがまったく合っていなかった。まるで、剣道初心者のような失敗だ。
体を起こそうとした時、視界の端にゴブリンだったものの姿が見えた。俺の剣はしっかりとゴブリンを斬りつけていたらしい。ゴブリンの左肩から右わき腹まで、一刀両断されていた。
「……やった、のか?」
俺はしばらく地面に片膝をついたまま息を整えた。今起きたことが信じられなかった。俺の中に湧き上がった力、それを完全に制御することはできなかったが、それでも結果は出た。
ゴブリンは死んでいる。そして、俺はまだ生きている。
「何だこの力は……?」
俺はこの時、自分の理解を超えた力を手に入れていた。理由は分からない。
「ただ、力があるだけじゃダメだ……。俺にはまだ、もっと……」
そう呟きながら、俺は震える手で剣を握り直し、体を起こした。まだ戦場は続いている。周りには、まだ敵がいる。俺はこの新しい力を使いこなさなければならない――今すぐにでも。
「次だ……次は、完璧に斬ってやる……!」
俺は再び剣を構えた。生き延びるためには、この力を完全に自分のものにしなければならない。
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