第67話 終わりのない戦いのために
戦地から城へと戻る馬車の中で、俺はじっと窓の外を見つめていた。曇り空の下、荒れた大地が続いている。戦場の匂いはまだ鼻先に残り、頭の奥で鈍い痛みを感じた。兵士たちの疲れた顔、輝きを失った目が、脳裏にこびりついて離れない。戦争が続く限り、彼らの苦しみは終わらない。それを、どうにかしなければならない。
「このままじゃいけない……」
俺は呟いた。まず、戦争を終わらせなければならない。この無意味な戦争を。それが今のヒルトハイムを救う第一歩だ。国民が疲弊し、経済が崩壊しかけている。戦いを続けるために必要な資源は枯渇し、何よりも兵士たちの心が限界に近い。これ以上の戦争継続は、ヒルトハイム自体の破滅を招くだろう。
「兄さん、考えていることがあるんだ……」
俺は隣に座る兄に声をかけた。ルイスはゆっくりと俺の方を向く。その鋭い目は、戦場で疲弊した兵士たちと同じように、どこか影を落としていた。
「なんだ?」
「この戦争は終わらせるべきだ。国のために、俺たちのために……いや、何よりも兵士たちのために。」
兄はしばらく俺を見つめ、ため息をついた。そして窓の外を見ながら、静かに言った。
「俺もそう考えている。だが、レオン……この戦争は、百年以上前から続いているんだ。俺たちがどうこうできる話じゃない。魔王が死ぬまで、この戦いは終わらない」
その言葉は、重く、現実を突きつけるものであった。戦争が始まったのは、魔王軍が最初に攻めてきたからだ。それから百年以上、この戦争は終わっていない。魔王を倒さない限り、俺たちは永遠にこの地獄のような状況から逃れられないのか。だが、魔王を倒すなんて簡単な話ではない。そう簡単に終わらせられる戦いなら、もうとっくに終わっているはずだ。
「戦争そのものを止められないなら、せめて戦線の縮小はできないか?」
俺は兄に問うた。今の無理な戦線拡大は、明らかに兵士たちを苦しめている。縮小して兵士たちを休ませることで、少しでも国の立て直しが図れるかもしれない。
「それなら……もしかしたら可能かもしれないな。だが、問題は国王だ。今の戦線拡大は国王の命令だ。それを撤回するのは容易じゃない」
俺はさらに訊いた。
「兄さんは、国王に進言したことはあるのか?」
ルイスは深い溜め息をついた。
「何度もだ。しかし、あの国王は聞く耳を持たない。それに、今の王宮の連中は皆、自分たちの利益ばかりを考えている。戦場の兵士のことなんて頭の片隅にもないさ」
その言葉に、俺は苛立ちを覚えた。国を預かる者たちが、国民や兵士の苦しみを無視して、ただ自分の利益を守ろうとしている。そんなことが許されるのか? いや、許してはいけない。
「なら、俺が提案しても無駄だな……」
俺は自嘲気味に呟いた。ルイスですら進言を無視されているのだ。俺の言葉が届くはずもない。しかし、唯一の希望が頭に浮かんだ。
「マルセルが提案してくれれば、もしかすると……」
俺は無意識に口に出していた。馬車の揺れに合わせて心が揺れ動く。この考えが唯一の打開策かもしれない。だが、マルセルが俺の頼みを聞いてくれるとは思えない。
「でも、やってみる価値はあるか……」
俺は小さく呟いた。戦地を回った時、兵士たちの疲れた顔が、俺の脳裏に焼きついて離れない。彼らを救うためなら、どんなに難しいことでも試すしかない。
「城に戻ったら、マルセルに進言してみよう。どうせ断られるだろうが、何もしないでいるよりはマシだ。」
俺は覚悟を決めた。この戦争を終わらせるためには、まず戦線を縮小させる。そのために、俺はあの男に頼み込むことを決意した。




