第63話 冷たい凱旋
ヒルトハイムに戻ってきた。
国王補佐官としての肩書きを引っさげて、俺はついに故郷の土を再び踏むことになった。しかも、選挙に勝利しての凱旋帰国。黒崎剛志時代から憧れていた夢を、俺はこの異世界で叶えることができたわけだ。
だが、現実は甘くない。俺を迎える国民たちの視線は、冷たい氷のように鋭く、刺すようなものだった。期待ではなく、疑念が渦巻いているのがはっきりと分かった。「本当にこの男が、俺たちの生活を改善できるのか?」と、誰もが目で問いかけている。エルダンシアの英雄なんて称号は、この場所ではほとんど無意味だった。
俺が立つヒルトハイムの街は、以前よりも陰鬱で、活気を失っていた。税金が増え続け、生活は逼迫し、人々の顔には疲労と不信がにじんでいる。それでも俺は、この国を救いたいと思っていた。それが俺を信じて待ち続ける人たちのためでもあった。
まずは城に向かい、国王との謁見を行う。謁見の間は相変わらず広々として無駄に豪華で、威圧感ばかりが漂っていた。国王の面前で、俺は形式的に国王補佐官として任命された。国王は本当に面倒くさそうな顔をしていた。まるで自分が何をやっているのか分かっていないようだった。ヒルトハイムが抱えている現実の重みが、この男には全く届いていない。俺を補佐官に任命する必要性すら、彼は理解していないのだろう。目の前に座っている王の姿を見て、俺は無力さと怒りを同時に感じた。
――国の王たる者が、ここまで腐っているとは。
任命式が終わると、マルセルが俺を部屋に呼んだ。彼の表情は穏やかだが、目の奥には冷酷さが潜んでいた。
「レオン、国王補佐官の役割は広報だ。それ以上のことは、絶対にしてはいけない。お前がやるべきことは、国王の政策を国民に伝えるだけだ。余計な行動を取ればどうなるか。分かっているな?」
釘を刺すように、彼は静かにそう言った。国王補佐官なんて名ばかりのものだ。実権はなく、ただの伝令係にすぎないと彼は念を押す。広報担当――それが俺の新しい役目。だが、それだけで終わるつもりはなかった。
マルセルは一見、俺を警戒しているように見えたが、その裏には計算が透けて見えた。今のヒルトハイムはいつ反乱が起きてもおかしくない。だからこそ、俺を前面に出して反乱の火を鎮めるつもりなのだ。英雄としての俺の名前を使い、国民に希望を持たせる。彼は、反乱さえ防げれば後のことはどうでもいいと考えているのだろう。
マルセルは政治の裏側を理解している。だが、それは国を救うためではなく、ただ自分の利益を守るためだ。彼は国王と共に甘い汁を吸うことしか考えていない。そんなものがこの国の実権を握っていると思うと、胸が悪くなる。
国王もマルセルも、そして他の貴族たちも、誰もが目先の利益しか見ていない。もちろん、それではいけない。政治とはもっと先を見据えるものだ。誰かが国民のために動かなければ、この国は崩壊する。
――この腐敗した国を立て直す。それが、俺がこの場所に戻ってきた理由だ。そのためにも、広報担当程度で終わるつもりは無かった。




