第60話 帰郷の決意
ヴォルフガングの手紙を読み返すたび、胸の奥で熱いものがじわじわと広がっていくのを感じた。もし反乱軍が決起すれば、マルセル軍との全面衝突は避けられないだろう。
マルセル軍は強い。ヒルトハイム最強の戦力だ。ヒルトハイムの魔法銃兵のほとんどはマルセル軍に所属している。あの強力な魔法銃の前では、いくら兄貴が肉体強化魔法の使い手であろうとも、無傷では済まない。ミュラー兵だって、ただでは済まない。最悪の場合、ヒルトハイム全体が混乱の渦に巻き込まれてしまう。
「ヒルトハイムが戦場になるかもしれないな…」
俺は窓の外を見つめた。遠くに広がるエルダンシアの平和な街並みが、一瞬、幻のように揺らいで見えた。ヒルトハイムはいま、破滅への道を歩んでいる。
ヴォルフガングの手紙には、もう一つ気になることが書かれていた。彼は新王のことを心配していた。いくら愚王とはいえ、ヴォルフガングにとっては幼い頃から知っている王だ。それが反乱軍の手で殺されるかもしれないと思うと、耐えられない気持ちになるらしい。
ヴォルフガングは、そんな迷いと苦しみを抱えながらも、俺に助けを求めてきた。彼は王も、ルイスも、そしてヒルトハイムの未来も、すべてを守りたいと願っている。だからこそ、彼は俺に助けを求めてきた。俺を信じている。俺なら何とかしてくれると。
「俺がヒルトハイムに戻るしかない」
俺は静かに、だが確かに決意した。ヒルトハイムに戻る。それが、俺にとって最も自然な選択だった。少しも悩むことはなかった。
エルダンシアでの生活は、何不自由なく、むしろ十分すぎるほどの待遇が用意されている。軍事最高司令官としての役職もあるし、俺の名は街中で英雄のように語られている。今後の生活だって保障されている。
ヒルトハイムには、俺を待っている人々がいる。ヴォルフガング、兄ルイス、そして多くの国民たち。彼らの声を無視して、俺はエルダンシアで悠々自適に生活することなどできない。
だが問題は俺がヒルトハイムを追放された身分であることだ。追放者が簡単に戻れる場所じゃない。無計画に動いても、あの地に足を踏み入れることすらできないだろう。
だからこそ、俺はフランツを通じて、マルセルにある提案をすることにした。フランツはマルセルの元部下で現在もつながりがあるはずだ。もし彼の協力を得られれば、ヒルトハイムへの道が開けるかもしれない。
心はすでに決まっていた。これから動くべきは、慎重に、そして確実に。
「兄さん、ヴォルフガング、待っていてくれ…俺が戻る。」
決意を固め、俺は静かに手紙を封じた。ヒルトハイムへ向けた俺の道は、すでに決まっていた。




