第6話 死線の中で
開戦の火ぶたが切って落とされた。乾いた音が砦の上空を裂き、ヒルトハイム王国軍の兵士たちと、魔王軍のゴブリン兵が激突する。鋼と鋼がぶつかり合う音、悲鳴、怒号。それらが入り混じり、地獄絵図のような光景が広がっていた。
俺はその喧騒の中で、意図的に目立たないように行動していた。いや、正確には戦うことから逃げていたんだ。積極的に戦いに参加するふりをしながら、できるだけ戦場の隅を走り回り、なんとか自分を目立たない存在にしようとしていた。戦場は広く、前線から後方までの距離もかなりあった。俺はその前線から後方までを行ったり来たりしながら、戦うのではなく生き残ることだけを考えていた。
だが、戦場というのは、そんな甘い場所ではなかった。どれだけ逃げようとしても、戦火の渦はいつの間にか俺の周りにまで迫ってきた。そして、気づけば、俺は敵のゴブリンたちに囲まれていた。
「くそったれ…」
周りには4、5匹のゴブリンがいた。体格は小さいが、黄色い目をギラギラと光らせ、俺を値踏みするかのように、ニヤニヤと笑いながら近づいてくる。まるで、弱そうな獲物を見つけたと言わんばかりだ。
逃げられないことは、瞬時に理解した。もう戦うしかなかった。けれど、俺の体は限界を超えていた。ずっと戦場を走り回り、逃げ続けたせいで、全身が疲れ果てていた。肩で息をしている。緊張と疲労で、右手に持った剣と左手に持った盾がプルプルと震えていた。膝も笑い、立っているのがやっとの状態だった。
「これじゃ、まともに戦えやしない…」
ゴブリンの一匹が、ニタニタ笑いながら一歩、また一歩と俺に近づいてくる。その顔には確信があった。俺が手軽な獲物だと理解している顔だった。その醜悪な表情と牙の生えた口から漏れるヨダレと低い唸り声が、俺の心臓を締めつける。
だが次の瞬間、俺は吹っ切れた。こんなやつに、ここで殺されるのか? こんな汚いゴブリンに? 冗談じゃない。
「どうせ死ぬなら…せめて、自分に合ったやり方で」
そう思った俺は、盾を捨てた。片手剣を無理やり両手で握り、剣道で慣れ親しんだ中段の構えをとった。このとき俺は、レオン・ミュラーではなく、剣道五段の黒崎剛志としてゴブリンに相対した。
そして心を研ぎ澄ませる。周囲の音が遠ざかっていく。ゴブリンたちの笑い声さえも、耳の奥でかすかに響くだけだ。俺の視界に映るのは、一匹のゴブリン、そいつだけ。やつを倒すことだけに、全てを集中した。
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