第59話 迫り来る反乱の影
エルダンシアの復興作業もひと段落し、俺が軍事最高司令官としての新しい職務に慣れ始めた頃、一通の手紙が届いた。差出人はヴォルフガングだ。彼の筆跡は相変わらず鋭く、そして今回は手紙の内容が一層切迫感を漂わせていた。
ヒルトハイムで暴動が起こりそうだ、という話だった。
手紙を読み進めるうちに、額に汗が滲んでくるのを感じた。内容は深刻だった。
王子が新王になってからというもの、国民の暮らしは日に日に苦しくなっていた。原因は毎年のように引き上げられる税金だ。
税金が高くなる理由、それは新王が贅沢三昧の生活を送ることしか頭にないからだ。後先を考えずに自身の快楽のために金を使うから、すぐに足りなくなる。足りないから国民から金を吸い上げるしかない。だから国民の税額がどんどん上がっていたのだ。
新王の側近も同じ穴のムジナだ。彼らはただ新王の機嫌を取って、贅沢の恩恵にあずかることしか頭にない。誰も国民の苦しみを感じようともしない。
「いつかこうなると思っていたが…まさかこんなに早いとは」
俺は手紙を握りしめ、少し視線を落とした。ヒルトハイムの国民の悲鳴が、紙の向こうから伝わってくるようだった。息を吸い、冷静さを取り戻す。
最も不穏なのは、マルセルだ。あいつもまた、自らの野望を捨ててはいない。王の無策に便乗して、自分の軍を密かに強化しているらしい。国が混乱に陥っても、あいつは決して止めるつもりはない。むしろこの混乱を利用して、さらなる力を手に入れようとしている。
「新王もマルセルも…本当に救いようがない」
国の未来を考える者がいない。ただ利己的な野心と欲望が、ヒルトハイムを壊そうとしている。そして、最悪の事態が近づいていた。
国民は限界を迎え、一部の兵士たちが反乱を企てているというのだ。
反乱の中心にいるのは――なんと、兄のルイスだ。
ヴォルフガングの手紙にはこう書かれていた。ルイスは反乱軍のリーダーとして担ぎ上げられていると。もちろん、彼の望みではない。暴力で物事を解決することを、兄は心底嫌っている。彼が求めているのは平和と秩序、彼は暴動を抑えようとしているのだ。彼らを落ち着かせるために彼らの仲間になり、いつの間にかリーダーにさせられていたらしい。
ルイスはヒルトハイムでも最強の戦士として知られていた。筋骨隆々の体格に、鋭い眼差し。戦場では誰よりも先頭に立ち、敵を蹴散らすその姿は、兵士や国民の間でアイドル的な人気を誇っていた。そんな彼だからこそ、反乱軍のリーダーになり、反乱を抑え込むことができていた。
だが、もうその限界は近い。
手紙には、明日にでも暴動が起きるかもしれないと書かれていた。国民はもう耐えられないのだ。飢えと圧政に、そして未来の見えない状況に。
ヴォルフガングの手書きの文字が胸に刺さる。
俺は立ち上がり、窓の外を見つめた。エルダンシアの街は静かだ。復興を終え、平穏を取り戻したこの地に比べ、ヒルトハイムは今、地獄のような状況だろう。
俺はどうすべきか、頭を悩ませていた。




