第53話 勝利の代償
一ノ町の奪還に成功した。俺たちがフェンリルを追い払い、街を取り戻した瞬間、エルダンシア全体が歓喜の渦に包まれた。ハーフリングたちは笑い、抱き合い、勝利を祝う。保安兵たちは肩を叩き合い、皆が自分たちの手柄を誇りに思っている。
その光景を見ながら、俺はその中で一人、厳しい顔をしていた。喜ぶハーフリングたちの中で、浮かない顔をしている俺は異質だったかもしれない。しかし、彼らにはまだ分かっていなかった。フェンリルから取り戻しただけでは、まだ彼らは元の生活にもどれない。
俺は黒崎剛志時代に何度も見てきた。地震や台風などの災害に襲われた街や村が、どれほどの困難に直面し、どれだけの労力をかけて復興していくか。俺も警察官として、復興のため被災地に派遣されたことがあったから。現実の厳しさを知っていたんだ。喜んでいる人々を見ながら、俺の胸に宿るのは不安と焦燥だった。
一ノ町は、エルダンシアの平民が暮らす地区だ。レンガ造りの家々が整然と並び、道は石畳で整備されている。上下水道も完備され、ゴーレム列車が走るための線路も敷かれている。街の造りとしては申し分ない。少なくとも、俺が元いた世界の市街地に引けを取らないほど整った街だ。だが、その美しい街並みは今や見る影もない。
家の窓や扉は無残に破壊されている。食料は荒らされ、家財道具は壊され、床にはフェンリルのよだれや毛が散乱している。街中にも破壊の爪痕が至るところに残っていた。上下水道も破損している箇所が多く、街の大通りには水があふれ、悪臭が漂っている。ゴーレム列車の線路も所々で曲がり、列車が通れる状態ではない。
「ひでぇな…」俺は小さく呟いた。
もちろん、こうした被害の一部は、俺たち自身のせいでもある。保安兵たちが街の中で魔法銃を好き放題にぶっ放した結果、家や施設にも甚大なダメージが及んだ。街を守るためとはいえ、その代償は決して小さくはない。だが、それもやむを得ない。俺たちは勝つために、そして街を取り戻すために戦った。結果的に被害が出たとしても、それを責めることはできない。
この街を元に戻すためには莫大な時間と労力が必要だ。破壊された上下水道の修復、荒れ果てた家々の再建、ゴーレム列車の線路も修理しなければならない。しかも、街を守るための城壁も、再び魔物の侵入を許さないように、以前よりも高く、頑丈に補強しなければならない。
俺は、目の前の光景を黙って見つめていた。ハーフリングたちが大喜びしているのを見ても、俺は笑えない。これから始まる復興の道のりは、戦いよりも厳しいかもしれない。だが、それをやり遂げるのも俺たちの役目だ。
「これが終わりじゃない。ここからが始まりだ」俺は自分にそう言い聞かせる。
戦いは終わったが、今度は復興という別の戦いが待っている。ハーフリングたちは、再びこの街に住み始めなければならない。そして彼らの生活を取り戻すために、俺はできる限りのことをしなければならない。戦うことだけが俺の役目じゃない。彼らが元の生活を取り戻すための手助けをするのも、俺の責務だ。
俺は、再び前を向いて歩き出す。歓喜の声が響く中、俺だけが静かに街の廃墟を歩き、これから始まる長い道のりを見据えていた。
復興。それは決して簡単な道のりではない。だが、俺はもう一度この街を元通りにしてみせる。それが俺に課せられた新たな使命だ。




