第46話 フェンリル襲来
自室のベッドで横になっていた俺は、深夜、突然の騒がしさに目を覚ました。外が妙に慌ただしい。これはただ事ではない。俺はベッドから起き上がり、扉を開けた。
ちょうどその瞬間、俺の部屋の前をハーフリングの文官が慌ただしく走り抜けようとしていた。そいつを捕まえ、事情を尋ねた。文官の顔は真っ青だった。息も荒い。
「城壁をフェンリルが…越えました! 現在、一ノ町で暴れ回っています!」
その言葉に一瞬、耳を疑った。エルダンシア共和国で、城壁を越える侵入者など前代未聞だった。ハーフリングたちがこんなに大騒ぎしているのも無理はない。文官たちはすっかり混乱し、うろたえた様子を隠せない。
「助けに行こう」
俺はそう決意し、目の前のハーフリングに命じた。
「俺の武器を持ってきてくれ」
しかし、彼は怯えた顔で首を振った。
「私にはできません…… 武器保管の担当ではないので」
担当が違う? ふざけた話だ。緊急事態だというのに、文官どもはこうして形式に縛られているのか?
心の中で苛立ちが募ったが、ここで押し問答をしている時間はない。文官たちも混乱している。俺は武器を諦め、素手で現場に向かうことにした。肉体強化魔法を使い、全速力で。
この頃の俺は、剣を持っていなくても、肉体強化魔法が使えるようになっていた。
俺が城壁に向かう途中でも、あちこちでハーフリングたちが慌てふためいていた。逃げ惑う姿や、どうすれば良いか分からず立ち往生する者たちが目に入る。文官たちも、街の住民たちも、完全にパニックだ。こんな状況じゃ、まともな避難ができるわけもない。
やがて、一ノ町と二ノ町をつなぐ城門に到着したが、そこではより大きい混乱の波が広がっていた。ハーフリングたちが我先にと二ノ町へ逃げようとしているため、城門がつっかえて完全に麻痺していた。門番たちが必死に誘導しているが、その混乱ぶりはどうしようもない。
「何やってんだ…」と小声で吐き捨て、俺は決断した。こんなところで待っているわけにはいかない。
肉体強化の魔法を再度発動させ、城壁を駆け上がる。軽々と壁を越え、瞬く間に二ノ町側から一ノ町側へ移動する。これなら時間を無駄にせず、事態の収拾に専念できる。
一ノ町側も案の定、大混乱だった。フェンリルの侵入に対して、住民たちが慌てて避難しようとしているが、まだ全員が逃げ終わるには時間がかかりそうだ。
「逃げ遅れた奴らを助け出さなければな…」
混乱の中で取り残されるハーフリングたちを探しながら、俺は街の中心へと足を進めた。




