第43話 酔っ払い
宴会が終わり、俺は自分の部屋へ戻った。さっきまでの賑やかな空気から一転、部屋の中は静まり返り、重い疲れが肩にのしかかってきた。手を伸ばして窓を開けると、冷たい山風が吹き込んできて、微かに夜の香りがした。ああ、ようやく落ち着ける、と思っていると、ふいに扉が開いた。
「お邪魔しまーす!」
酔っ払ったリリィが、酒の瓶を片手にふらつきながら入ってきた。リリィは完全に酔っている。顔がほんのり赤く、目つきが少しぼんやりしている。そのまま部屋に入ってきて、ドンと椅子に腰を下ろすと、酒瓶をテーブルに置いた。
「宴会は終わったんじゃないか?」
と俺が言うと、リリィは肩をすくめながら答えた。
「そうなんだけど、まだ飲み足りないの! あなたもまだ飲めるでしょ?」
リリィは酒瓶を振りかざしながらそう言い放つと、俺の返事を待たずして、そのまま独りで飲み始めた。
俺は冷めた目で彼女を見つめながら、仕方なく椅子に腰を下ろした。リリィの目はもう焦点が定まっておらず、まるで酔いに任せて思ったことを垂れ流すかのようだった。
「魔導具はさ…」リリィはぼそりと口を開いた。
「本当はもっと素晴らしいものなんだ。人々の生活を良くするために…たくさんの先人たちが知恵を絞って、血のにじむような努力をして作り上げてきたんだよ…」
俺は黙って彼女の言葉に耳を傾けた。
「でもさ、今は違う。魔導具は…金儲けのため、戦争のための道具にされてる。あたしは…そんなの許せない。せっかく先人たちが苦労して作り上げた技術が、そんなふうに使われてるなんて…」
リリィは怒りを込めた口調でそう吐き捨てた。その姿に、一瞬彼女の本当の思いが垣間見えた。エルダンシアという国が誇る魔導具。その技術が、戦争を支える道具に成り果てた現実に、彼女は不満を募らせているのだ。
「それにさ…レオン気づいてる? ハーフリングのほうが魔力が多いからって、人間を見下してるんだよ」
リリィは、口調が少し荒くなった。魔力という存在が、この国でどれだけの意味を持つのかは、俺にも容易に想像がついた。ハーフリングたちは、比較的魔力量が多い種族だ。それを誇りに思うがあまり、魔力の少ない人間を見下し、そして自分たちをエルフに近い存在だと信じている。
「エルフだって、ただ魔力が多いからって、あんなに偉そうに…!」
リリィは続けたが、次第に言葉が途切れ、疲れたように酒瓶を下に置いた。酔いが回ったせいか、彼女の瞼は次第に重くなり、言葉も途切れがちになっていく。
「はぁ…もう、眠い。帰る…」
リリィは不意に立ち上がり、よろめきながら部屋を出て行った。その背中を見送りながら、俺は思わず肩をすくめた。なんて勝手な女だ。だが、酔いに任せた彼女の言葉には、確かに真実があった。
部屋の扉が静かに閉まると、再び静寂が戻ってきた。俺は、リリィが残した酒瓶を一瞥し、深いため息をついた。エルダンシアという国は、見た目以上に複雑で、奥深い問題を抱えている。そのことに気づいた俺は、面倒な国にきたものだと思った。




