第42話 エルダンシアの思惑
リリィがエルダンシアの国中を案内してくれた後、俺たちは山頂にある五ノ町の大きな建物へと招かれた。その建物の中には、広々とした部屋がいくつもあり、そのひとつで俺たちの歓迎会が開かれた。部屋に一歩足を踏み入れると、まるで山の中に埋め込まれた宝石箱のような光景が広がっていた。高い天井には精緻な魔導具の灯りが揺れ、壁には繊細な模様が刻まれた装飾品が所狭しと飾られていた。
その場に集まったのは、エルダンシア共和国の有力者たちだった。リリィのブラックウッド家だけでなく、さまざまな名家の顔ぶれが並んでいた。驚いたことに、俺はそこで軍事指導特別長官として国賓級の扱いを受けた。
おかしな話だ。軍事指導特別長官なんて、マルセルが俺をエルダンシアに左遷するために作った役職なのに。
しかし彼らは全て知っていた。俺がなぜどのような経緯でこの場所にいるかを。けれども、誰もそのことを口にしない。目の前にいる有力者たちは、俺をあくまで国賓級に扱い、厚くもてなした。
このもてなしの理由はすぐに分かった。彼らは、俺の奥にマルセルを見ていたのだ。
酒が運ばれ、杯が満ちる。俺はエルダンシアの有力者たちと、形式的な挨拶を交わしながら、少しずつ彼らの思惑を読み取っていく。すると、話の中で、彼らが一番儲かっているのは魔導具の輸出だということが分かった。特に魔法銃や魔弾。これらが今、エルダンシアの主力商品となっている。そしてこの頃、最も多くそれらを買っているのは、ヒルトハイム王国であり、マルセルだった。
だからエルダンシアにとって、一番のお得意様はマルセルだ。マルセルの機嫌をそこねる訳にはいかない。
そして俺は、エルダンシア側からすると、お得意様のマルセルが派遣した男ということになる。だから彼らは俺たちを歓迎した。万が一、俺たちを通じてマルセルとの関係が崩れることを恐れて。彼らにとって、俺の役職とか魔力量なんて関係ない。俺の機嫌を取ることで、俺の後ろにいるマルセルの機嫌をとっているのだ。
どうりでフランツが威張り散らしているはずだ。俺の隣に立つフランツは、まるで自分が主役だとでも言わんばかりに昂然としている。彼は知っていたのだ。エルダンシアのこの状況を。
宴会が進み、酒がまわり、本音が漏れ始める。
魔導具に必要な魔法石の加工には、魔力が欠かせない。そしてハーフリングたちは、全員が魔力を持っている。彼らはそれを本当に誇りに感じており、逆に魔力を持たないドワーフや、魔力が少ない人間を完全に見下していた。逆に、エルフのような強大な魔力を持つ種族には、強い劣等感を抱いている。彼らの態度は、常に上下を意識したものだった。醜い思想だ。
この国の表と裏が少しずつ見えてくる。俺はそんな考えを巡らせながら、杯の中の酒を飲み干した。苦い酒だったが、このときの俺の心境にはちょうど良かった。




