第40話 エルダンシア共和国
フランツと俺は、山々に囲まれたエルダンシア共和国へ到着した。ヒルトハイム王国の北側に位置するこの国は、ヒルトハイムと同じように魔王領と隣接している。エルダンシアとは、この地にそびえる巨大な山の名前だ。そしてその名を冠するこの国は、エルダンシア山の中腹から頂上にかけて建てられた城塞国家だった。
まず俺の目に飛び込んできたのは、その独特な地形を利用した堅牢な造りだった。山の中腹をぐるりと囲む城壁が、まるで自然の一部であるかのように見える。どこか、日本の戦国時代に築かれた山城のようでもあった。山肌の凹凸を利用していくつかの集落が形成されており、それぞれの集落は尾根や谷に沿って点在していた。そしてその集落一つ一つも、それぞれ城壁で囲まれていた。麓にある集落から、一ノ町、二ノ町、三ノ町と名前がつけられている。
そんな要塞の国を統治しているのは、ハーフリングだ。ハーフリングは、人間の半分ほどの大きさしかない小さな種族だ。その外見もまた、あどけなさを感じさせる。正直なところ、子供と大人の区別がつかないほどだ。彼らが俺たちを見上げる姿は、まるで小さな動物のように愛嬌がある……と言いたいところだが、そうではなかった。
入国してすぐ、俺は違和感を感じた。どこに行っても、出会うハーフリングたちは皆、怯えたような目で俺たちを見つめてくる。それもただの警戒心ではなく、明らかに恐怖が混じっている。俺は特に威圧感を出しているつもりはなかった。それに、俺自身はどちらかといえば地味な風貌だ。そう、彼らの視線は俺ではなく、隣にいるフランツに向けられていたんだ。
フランツ――あの、鏡を手放さないエルフだよ。細身で上品、そして優美な動作で俺とは正反対の男。そんなフランツが、彼らの前でまるで当然のように威張り散らしているのだ。入国手続きを担当してくれたハーフリングの役人に向かっても、上から目線の命令口調で話しかけている。まるで自分が王族であるかのような態度だ。
「さっさと済ませろ。この俺に手間をかけさせるな」
それに対して、ハーフリングたちは一様にペコペコと頭を下げ、言われるがままだった。俺には到底理解できなかった。どうしてこんなに怯えているのか? どうしてフランツがここまで高圧的に振る舞うことができるのか?
答えは、ハーフリングのリリィが教えてくれた。
「ハーフリングはエルフを自分たちよりも上位の種族だと思っているの。だって彼らは私たちより魔力量が多いから」
俺は驚いた。どうやらエルダンシアのハーフリングたちは、魔力量の多少で種族の優劣を決めているようだった。そしてエルフは、この世界において有数の魔力量を誇る種族である。フランツはそのことを十分に理解しており、その地位を最大限に利用していたのだ。
俺は少しばかり居心地の悪さを感じたが、同時にこの国での立場がどうなるかを考え始めた。俺はここに軍事指導特別長官として来たが、果たして魔力量がゼロの俺はどういう扱いを受けるのだろうか。




