第39話 旅立ち
まさか俺が国外追放される日が来るとは思わなかった。形式的には「エルダンシア共和国へ軍事指導特別長官として出向」。だが、誰がどう見ても俺を国外へ追い出すための方便だ。
その理由は分かりきっていた。俺は王子に心の底から嫌われていたからな。王子が新王となったいま、ヤツのワガママを止められるものはいない。なんでもヤツの言うとおりになる。新王でも王だ。王の命令に背けば、俺だけでなく兄やミュラー兵たちにも迷惑がかかる。それだけは避けたかった。だから、仕方なく命令に従った。
バカでワガママな新王のことだ。いきなり嫌いな俺を処刑することだって考えられた。しかし処刑ではなく出向になったのは、おそらくマルセルの入れ知恵だ。俺はこのころすでに、軍人としても近衛兵としても、それなりに人気があった。また、国内最強の戦士であるルイスの弟でもある。そんな俺を急に処刑しては、国民からの反感を買うと考えたのだろう。
ともかく、俺は、王の命令に従った。自分のためではなく、仲間や家族のために。苦渋の決断だったがね。
出向にあたり、俺には世話係がつくことになった。そう、フランツだ。フランツは、エルフ。華奢で、細長い体型に、端正な顔立ち。まるで絵に描いたような貴族の振る舞いをするやつ。俺の苦手なタイプ。つまらないことに気を使い、常に他人の目を気にしている。今でもよく覚えている。最初に出会ったときも、何度も鏡を覗き、髪や衣装を整えていた。俺はその姿を見るたび、毎回イライラしていたよ。
そしてなにより、フランツは俺の世話係になるまで、マルセルの部下だった男だ。
エルダンシアへ向かう馬車の中も、フランツは俺の隣でひたすら身だしなみを整えていた。表面上は礼儀正しく、俺に最低限の会話を投げかけてくる。ただ、俺としてはあまり話す気になれない。どうせフランツは「世話係」という名目で、マルセルのスパイとして送り込まれたのだ。俺がエルダンシアで大人しくしているかを確認するために、監視役を置いたに違いない。そう思うと、余計に話す気にはなれなかった。
フランツもフランツで、俺の世話係になったことに、明らかに不服を感じているのが目に見えて分かる。優秀である自分は、マルセルの下で彼の右腕として働くべきだ。新王の嫌われ者の監視は、自分より能力の低いものがするべきだ。そもそも、高貴な存在であるエルフが、なぜ人間の世話係などしなければならないのか。そんなことを思っているのだろう。態度に表れている。
だから、なるべく話さずにいる。それが、フランツにとっても、俺にとっても都合がいい。役職上の付き合いだからこそ、最低限の会話だけを交わし、あとは無駄な言葉を避ける。お互い、関わりたくないのだ。
エルダンシア共和国への道のりは長い。馬車の揺れが心地よく、少し眠気を誘うが、俺の思考は冷徹に進んでいく。どこでどう仕返しをするべきか、どんな方法で王都へ返り咲くか、俺の頭の中で計画は練られ始めていた。フランツが隣で鏡を覗き込んでいるその間にも、俺は冷静にその先を見据えていた




