第38話 王の死
王が死んだ。その知らせ聞いたとき、俺は一瞬耳を疑った。死因は不明。夕食中に突然苦しみ出し、そのまま絶命したとのこと。
どう考えてもこれは毒殺だ。あまりに突然で、不自然すぎる。
しかし、なぜ王が毒殺されなければならなかったのか。誰が、どんな理由で、あの王を手にかけたのか。
王の訃報を受けて、ヴォルフガングとともに謁見の間に入った瞬間、すぐに答えが分かった。
王の椅子にはすでに王子が座っていた。彼の横には、まるで詐欺師のような嫌な笑みを浮かべたマルセル。高級文官たちも揃ってニヤニヤとほくそ笑んでいた。謁見の間には、どす黒い陰謀の臭いが漂っていた。
犯人は王子――いや、正確には王子を操ったマルセルだ。目の前の光景を見た瞬間、そう確信した。王子が王を毒殺したのは、俺が王子の剣術教育係に任命されるのが嫌だったからだ。どこかでその情報が漏れ、マルセルはそれを巧妙に利用したのだ。
マルセルはおそらく、王子にそれとなく暗殺を提案し、王子自身に命令させた。「誰でもいいから、王を殺せ」と。そして高級文官たちもまた、俺のことをよく思っていなかった。最近王都に来たばかりの田舎貴族の次男である俺が、王子の教育係になり将来的に近衛兵長にまで出世するのを面白く思うはずがない。王子の命令にみな喜んで従ったに違いない。もちろん証拠は全て上手にもみ消している。この場にいる全員の顔に、そう書いてあるように見えた。
そして、その場で新しい役職が発表された。もちろん、新王には王子が即位した。そして彼の側近には、マルセルをはじめ、昔から王子に媚を売っていた連中が名を連ねていた。新しい体制は、この国の腐敗をより加速させる顔ぶれだ。
ヴォルフガングは近衛兵長の任を解かれ、門番に降格された。ヴォルフガングは無念の表情をしていた。その様子を見て、胸が痛んだ。あれほどの男が、こんなにも無惨な扱いを受けるとは。そして、新しい近衛兵長に任命されたのは、俺の兄――ルイスだった。
驚きはしたが、新王のワガママなのだろう。しかしルイスが王都で暮らすようになれば、俺たちミュラー家が治めていた田舎の土地はどうなるか? なんと、その日からマルセルの部下が治めることになった。ミュラー家の土地、建物、兵たちは、マルセルの部下の持ち物になったのだ。全てが奴の掌の上で動いていた。
そして俺は、隣国エルダンシア共和国への出向が命じられた。言い換えれば、国外追放だ。表向きには「軍事指導のため」となっていたが、実際は面倒な俺を王都から遠ざけたいのだ。
新王の命令だ。だから俺は、出向を受け入れた。「いつか必ずこの国に帰ってくる――」そう心の中で決意しながら。




