第34話 初めての演説
なぜか俺も、兵士たちの前で挨拶をすることになった。急に振られて、最初は戸惑っていた。しかし兵士たちの前に立つと、考える間もなく口が勝手に動いた。
「お前たち、昨日はよく眠れたか?眠れないだろう。それはなぜか?」
俺は声を張り上げる。自分でも驚くほど、声に力が入っていた。
「それはなぜか。魔王軍が迫っているからだ。お前らだけじゃない。お前らの母親、妻、子供だって毎日安心して眠れない。毎日が恐怖だ。いつ、どこから魔王軍が襲ってくるか、誰も分からない。だから誰も安心して眠れやしないんだ!」
少しずつ、力強さが増していく自分の声に気づいた。
「だから、俺たちは戦う!自分のために。誰かのために! 恐れるな!俺たちにはミュラー流剣術がある!あの野蛮な魔王軍どもを蹴散らす力がある!お前たちの手で、家族を、愛する者を守れ!正義は我らにある!」
気づいたときには、俺の身体に魔法の力が満ちていた。肉体強化魔法を無意識に使っていたのだ。俺の声は、ただの声ではなく、魔力を乗せて兵士たちの耳に届いている。兵士たちの顔に、力強い反応が現れた。緊張した表情が、徐々に引き締まり、目に光が宿った。
この瞬間、俺は気づいた。ただの戦闘用のものだと思っていた肉体強化魔法は、演説にも使えることを。声が強く、重く、どんどん兵士たちに響いていく。目の前にいる彼らが、まるで獣のように闘志を燃やす姿が見えた。
そういえば、王子だけは不満そうな顔をしていたな。王子は、俺の演説を終えた後、兵士たちの様子が変わったことに気づいていた。明らかに、王子の演説とは違う反応が兵士たちに見られたことに不満げだった。それも当然だろう、王子の演説では兵士たちはどこか浮かない顔をしていたし、俺の演説で明らかに士気が高まったことは目に見えていた。
その日、戦場に出たミュラー軍は圧勝だった。兵士たちの士気は高まり、彼らは獣のように暴れ回っていた。目の前で起こる戦闘は、言葉で表現するのが難しいほどの激しさ。どちらが魔物か分からないぐらいだったよ。
特に兄の戦い方は圧巻だった。片手に剣、もう一方に魔法銃を持ちながら、戦場を駆け回り、次々と敵を倒していく。その戦い方は、まるで嵐そのもの。兄は剣道を自分のものにし、それを独自に進化させた剣術を編み出していた。兄のオリジナル剣術は、もはや努力や才能だけで到達できる領域ではない。どれほどの時間を、血と汗を流しながら練習したのだろうか。
王子も、兄の戦いぶりに目を輝かせていた。俺へのイライラなどすっかり忘れ、兄の活躍に見入っていた。馬車で王都へ戻る道中も、王子はすっかり満足した様子で、穏やかなものだった。ガキは単純で助かる。
こうして、俺の初めての護衛遠征は終わった。近衛兵の戦い方や兄の圧倒的な強さなど、学んだことは多かった。だが一番の収穫は、俺自身が新たに見つけた肉体強化魔法の応用的な使い方だ。




