第33話 怒れる王子
野盗に襲われた翌日から、俺と元ミュラー兵たちは交代で王子のそばを離れないようにした。護衛というよりは、見張りだ。
王子は俺たちを目障りだと言わんばかりに、俺に対してさらに敵意をむき出しにするようになった。王子は、俺が王子を見ていない時は俺をにらみつけ、俺と視線が合いそうになると、まるで無視するように目をそらした。
嫌われた理由は明白。俺たちが、王子の自由を奪っているから。これまで王子は、自分の思うとおりに行動ができていたのだろう。しかし、俺たちは違う。王子に勝手な行動を許さない。王子の命が最優先だ。それが、近衛兵である俺たちの役目。絶対に王子のご機嫌取りを最優先にしない。
ヴォルフガングは、俺たちに感謝の言葉をかけてくれる。彼の信頼はありがたい。だが、そんな俺たちに対して、王子は日に日に苛立ちを募らせていく。癇癪を起こすことも増えた。
そしてその癇癪は、王子の側近たちに向かう。だから俺たちはいつの間にか、王子だけでなく王子の側近たちにも嫌われるようになっていた。
しかし、そんなことはどうでも良い。俺たちは俺たちの仕事を全うしているだけ。正しいのは俺たち。だから俺たちは誰からどんなに嫌われようとも、護衛期間中に王子のそばを離れることはなかった。
その後は特に大きな問題もなく進み、数日かけて戦場に到着した。
兄は俺たちの到着を歓迎してくれた。王子も兄に会えてご満悦。ようやく機嫌を取り戻した様子だった。
兵士たちは驚いていた。王子を間近で見れたことに驚いたんじゃない。兵士たちにとって、王族とは、戦場を見もしないで、ただ命令を下すだけの存在だ。王族が自ら戦場に足を運ぶなんて、この頃の常識ではありえないことだった。だから兵士たちは、驚くと同時に、どこか緊張した雰囲気をまとった。
戦場に到着した翌朝、王子は兵士たちを集め、激励の言葉をかけることになった。全員が集まり、ざわめく中、王子が高らかに声をあげた。
「おいお前ら! お前らの頑張りが足りないから、俺は道中で野盗に襲われたんだ! もっと精進しろ! マルセルやルイスを見習って、もっと頑張れ!」
王子は満足げに胸を張って言った。兵士たちは一瞬、固まったような気配を感じた。誰も声を上げることができず、ただ黙って王子を見ている。息苦しい沈黙。重苦しい空気が、周囲を包み込んだ。
これから戦いが始まると言うのに、最悪の空気だ。これからどうするんだろう。ふと兄を見た。その時だ。
「おい、レオン。お前も何か言え」
と兄に言われた。俺の心の中で何かがふっと冷えた。
この状況で? 俺が? 兵士たちの前でいったい何を話せというのか。




